片翼の召喚士 ep.37 救出作戦(8)

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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片翼の召喚士 ep.37 救出作戦(8)

 太陽が西に傾きかけた頃、かろうじてそれが建物である、という程度に原型をとどめた遺跡に、しなやかな影がひらりと舞い降りた。シルエットはネコの耳と尻尾を象っていた。

「おっつ、ペルラ。どうだったよ?」

 柱のひとつにもたれかかったまま、ギャリーは戻ってきたペルラに声をかけた。

「西の方にある軍事施設の一つに拘禁されていた。取り調べを受けながら、VIP並に厚遇されてる。1人だけ救出ならともかく、今のままだと5人は無理」

 ペルラは細い肩をすくめ、気位が高そうな尻尾をユラユラと揺らした。

「そっかあ……めんどくせぇ」

 ギャリーはカシカシっと髪を掻き毟ると、海を眺めていたシビルを手招きした。

「カーティス呼び出してくれ」

「あいよ」

 シビルは肩に乗る小鳥を掌に乗せて、小鳥の頭を優しく3回叩く。キュッリッキから渡された連絡用の小鳥だ。見た目は黄色い羽根の、ルリビタキのような姿をしている。

〈はいはい、こちらカーティスです〉

「ペルラに偵察してきてもらったんだが、あまりにも警備が厳重すぎて、こっそり頂戴作戦は、無理ぽそーだぜ」

〈やはりそうですか…〉

 ソレル王国に不当に拘束された皇国の研究者たちを救出するため、カーティスとギャリーは、それぞれ仲間を率いて二手にわかれて機会を伺っていた。カーティスは陽動部隊の指揮、ギャリーは救出部隊の指揮だ。

 手当たり次第無闇に関連施設を襲わなくて済むように、ギャリーは偵察の得意なペルラに現地を探らせに行かせていた。

 あまり大事にすると後々面倒なので、無用な戦闘を避け、救出に専念したいところだが、そういう状況ではないようだった。

「そーいや、ブルニタルから連絡があったが、あっちはとっくに終わってるそうじゃないか」

〈そうなんですよ。先ほどベルトルド卿からも「早くしろ」とケツを蹴られた次第です〉
「げっ……」

 その場に複数のため息が流れた。現場を知らず早くしろとせっつかれても、困るところである。もっとも、その場にベルトルドがいたら、一人で全て片付けてしまう力があることを、皆知っている。もちろん、大破壊の上で、だ。

「市街地戦になっちまうよな。動きの悪すぎる研究者5名抱えて、ナルバ山までトコトコ走っても半日はかかるだろ。どうするよ」

 ギャリーはかったるそうに、小鳥の向こうにいるカーティスに投げかける。

〈助けるのはいいんですが、逃げる時なんですよねぇ…〉

 逃走手段の案に手詰まり、ギャリーとカーティスが同時に黙る。助けることはあまり問題ではないが、助けたあとの移動手段が大問題なのだ。ライオン傭兵団だけでなら、いかようにも逃げられるが、研究者たちが足を引っ張っている。

 無言で唸るギャリーとカーティスの沈黙を破るように、小さく「あ」とマリオンが声をあげた。

「ねぇねぇ、キューリちゃんにSOSしようよぉ~」

「キューリにこっちきてもらうのか?」

「いやいや。この小鳥をでぇっかくしてもらってさあ、逃げるときぃ、みんな乗ってサラバ! ってやれないかなあ~。だってぇナルバ山組は、おーっきな鳥に乗って移動もスイスイ~だったんでしょぉ」

「らしいけどよ、キューリここにいないのに、そんなことできるのか?」

「しぃらなあ~い」

 マリオンは間延びした声で無責任に言い放った。しかしカーティスはその案が気に入ったようだ。

〈うん、そのアイデア悪くないですね。ちょっとキューリさんに聴いてみましょうか〉

〈キューリさん、キューリさん、聴こえますかー?〉

 ブルニタルの肩に止まっていた小鳥が、突然カーティスの声を発し、本に目を通していたブルニタルはギョッとして、まだら模様の尻尾を逆立てた。

「カーティスさん脅かさないでくださいよっ!」

〈ははは。こりゃ失礼。キューリさん出してもらえますか?〉

「はい」

 何事かとこちらを向くキュッリッキに、ブルニタルは小鳥を指して手招きした。

 キュッリッキはすぐに駆け寄ってくると、ブルニタルの傍らに座り込んだ。

「なあに?」

〈ああキューリさん、実はちょっとお願いがあるのですが〉

「うん?」

〈今こうして通信用に使っている、私とギャリーの2羽の小鳥を、でっかくして遠隔操作する、なんて離れ業出来たりしますか?〉

「できるよ」

 あっさりと即答されて、向こうのどよめく声が聴こえてきた。

〈おぉ…それは助かります。で、どうすればいいでしょう〉

「じゃあ……」

 顎に指を当てて天井を見上げ、キュッリッキは少しだけ考えるふうにした。

「小鳥は常にカーティスとギャリーに固定しておいてください。アタシは小鳥たちと視界をリンクするので、逃げる段階になったら小鳥を操作するね」

〈なるほど、判りました。ではお願いします〉

 通信が切れると、キュッリッキはブルニタルから小鳥を自分の肩に移した。

「ちょっと外で向こうの作戦のお手伝いするから、誰か護衛してくれる? 外の方がやりやすいの」

「俺とメルヴィンで見ていよう」

「了解です」

 ガエルとメルヴィンは立ち上がると、キュッリッキの後に続いた。

「だそうですので、逃げる準備は万全です」

〈おっし、なら作戦開始するか!〉

 ギャリーの声に気合が入る。「言ってみるもんだねえ~」とマリオンがのほほんと言う声も流れてきた。

「では……”遠慮なく暴れて助けてとんずら大作戦”、開始しましょうか」

〈…その身も蓋もない恥ずかしい名称はヴァルトだな〉

「当たり前じゃないですか。では、お願いしますよ」

〈おっけー!〉

 通信が終わると、カーティスは小鳥を肩に移し、マーゴットから杖を受け取った。飾り気は一切なかったが、呪文がびっしり彫り込まれた銀の杖である。

「ヴァルト、タルコット、ハーマンは大いに暴れてください。ルーファスは私とマーゴットの護衛です」

 了解、と各々から声があがる。

「強化魔法を掛け終えたら、開始しますよ」

 銀の杖がゆるやかに光りだす。呪文の詠唱は一切しない。強化魔法の呪文は全て杖に彫り込んであるため、詠唱を必要としないようになっていた。

「なあなあ、キューリが使ったみたいなチートサポートかけてくれ!」

「無理ですよ…」

 杖に意識を集中していたカーティスが、ガックリと肩を落とす。

 バチンと勢いよく掌に拳を叩きつけ、ヴァルトは眉をひそめた。

「クマ野郎に負けたくねえ!」

「ボクも負けるのは癪だな…」

 傍らで無表情に強化魔法を受けるタルコットに、挑発的な視線を向ける。

「タルコットにも負けないぜ俺様は!」

 肉弾戦になるヴァルトには、とくに念入りに強化魔法がかかる。ガエルと違って防御を気にしない性分のヴァルトは、被弾も酷かった。後々のことを考えると手が抜けない。

 タルコットは身につけている漆黒の甲冑に、幾重にも防御魔法が埋め込まれた特注品なのもあり、ある程度は自分でやってくれる。

 ふうっと息を吐き出し、カーティスは銀の杖を下げた。

「強化完了です」

「よし、いくぜ!!」

 ソレル王国首都アルイールは海岸沿いに建てられ、人口70万人ほどの賑やかで大きな街だ。しかし街の中には多くの遺跡が存在していて、その合間を縫うようにして家屋が建つので、見た目が悪い都市としても有名だった。街の景観より遺跡の保護を謳う国らしい街並みだった。

 都市の中央には小高い丘があり、優美な宮殿が建っている。ソレル王国を建国したメリロット王家のものだ。その王宮の丘から西の方角に、軍事に関する施設がある。やはりここも遺跡をまたぐようにして施設がバラバラと建っているので、どこかまとまり感を欠いた雰囲気が立ち込めていた。

 左右を遺跡に囲まれた、広大な敷地に建つ軍の収監施設の周りは鉄柵で覆われ、囲いに沿って所狭しと銃兵たちが並んでいる。そして敷地内では、白い漆喰を塗り固めた石造りの2階建ての建物の周りに、剣を帯びた茶色い甲冑をまとった兵士たちが、びっしりと埋め尽くしていた。

 そして施設周囲の木や建物の上には、狙撃専門の銃兵たちも配備されている。施設前の路上には、身動きもままならないほどの銃兵、魔法兵なども配備されていた。

 敷地の中、外回りなど合わせ、約3個中隊ほどの大人数である。厳重に輪をかけた重厚な警戒態勢だ。

 夕刻になり、蒸し暑さが多少緩和され、海風がそっと吹き抜けていく気持ちのいい時間帯に、突如耳をつんざく爆音が轟いた。

 密集した兵士たちの間に、突如複数の火柱が無造作に立ち上がったのだ。魔法スキル〈才能〉を持つハーマンが放った、火炎系攻撃魔法【ギガス・フランマ】だ。

 巨大な火柱は、兵士たちを無差別に飲み込み焼き尽くす。あまりに突然起こった出来事に、兵士たちは狼狽し、騒然となった。

 火柱で騒然となっている場から、少し離れたソレル王国兵たちの上に、ふわりと真っ白な羽根がいくつも舞い降りてきた。

「オラオラいくぜテメーら!!!」

 ざわつく兵士たちに劣らぬ大声で、ヴァルトが天から落下し、密集する兵士たちのど真ん中に拳を叩きつける。地面はベコッとめり込むと、亀裂を生じながら巨大なクレーターを作った。土埃が盛大に巻き起こり、砕かれた石つぶが風に乗り兵士たちに当たる。そして衝撃に巻き込まれた幾人もの兵士たちが、豪快に吹き飛ばされた。

 格闘系複合スキル〈才能〉 を持つヴァルトは、肉体を操作して拳のパワーを高めていた。更に落下していくスピードと強化魔法の恩恵を受けて、通常よりも強力な破壊力を生み出している。

「アイオン族だと!?」

 拳圧でおこった風でよろめきながら、中隊の指揮官が叫んだ。いきなり降って湧いてきた見ず知らずの男にも驚いたが、その背には、巨大な白い翼が生えている。

 気位の高いアイオン族が、惑星ヒイシで翼を広げる姿なぞ、滅多に見られるものじゃなかった。

「おめーら全員、俺様がぶっ飛ばす!」

 片手を前方につき出すと、掌を上に向けてクイクイッと誘うように動かし挑発した。

 あまりに不遜な態度である。気位が高いというより、ただ偉そう、といった態度だ。

「アレを撃ち殺せ!!」

 声を裏返らせた指揮官の合図で、一斉にヴァルトに向けて砲弾が飛んだ。