片翼の召喚士 ep.32 救出作戦(3)

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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片翼の召喚士 ep.32 救出作戦(3)

 綿毛たちが偵察に出て数分後、4人の表情に、サッと緊張が走った。

「獲物を、見つけてきたな」

「随分と多いなあ、中隊規模でしょうか」

「カーティスさんはここが一番手薄だろうと言っていましたが、ハズレでしょうか。200人弱は居そうです」

「ガエル嬉しそう」

「久々に大暴れ出来る」

 ガエルは太い指をボキボキと鳴らす。気は充実し、すでに臨戦態勢になっていた。

 最近では、舞い込んでくる仕事は小物が多く、ここまで大勢の敵を相手にする機会がなかった。それだけに、戦闘を好むガエルには、鬱憤晴らしにもなる。メルヴィンも荷物から剣を取り出し、準備を始めた。

「ガエルとメルヴィンがいるので、戦力は問題ないですが、魔法使いや厄介なスキル〈才能〉持ちもいるかんじです。こちらは回復系魔法の使い手がいませんから、慎重にいかないといけません」

 顎に手をやって考え込むブルニタルをよそに、キュッリッキは楽しそうに笑むと、ガエルの腕を突っついた。

「ガエルは、あいつらをベッコベコに殴り倒したいんだよね?」

「当たり前だ。あいつらは俺の獲物だからな」

「判った~。んじゃあ、これをガエルとメルヴィンに渡しておくね」

 キュッリッキがパチリと指を鳴らすと、キュッリッキの目の前に、突如大きなガラス板のようなものが出現した。

「2人の行動に対して、”阻害する意思”のある行為は、全てこの子たちが弾くの。そして、この子たちが2人の疲労を吸い取ってくれるから、敵が何千人になっても元気に動き回れるからね」

 ガラス板のようなものはブルッと震えると、10枚に増えて、それぞれ5枚ずつガエルとメルヴィンを囲んだ。

「2人の動きには干渉しないし、この子たちに攻撃が当たることもないから気にしなくて大丈夫だけど、視覚的に邪魔になるだろうから、見えないようになってもらうね」

 ガエルはニヤリとして、キュッリッキを見おろした。

「頭上や足元からの攻撃は大丈夫か?」

「変形するから問題ナシ」

 キュッリッキは親指を立てて保証する。ガエルの顔に不敵な笑みが広がった。

「あいつらの始末は俺たちに任せておけ。いくぞ、メルヴィン」

「ええ。ありがとうリッキーさん」

 メルヴィンはキュッリッキに一礼すると、両腰の片手剣を抜いた。ブロードソードとフランベルジェの二刀剣法だった。

 2人が中隊のいる方へ駆け出すと、キュッリッキはブルニタルを振り向いた。

「ブルニタルは暴れたりするの?」

「私は頭脳戦専門ですし、護身術程度しか戦闘は出来ません」

 顔は強気を貼り付けていたが、尻尾はどこか申し訳なさそうに揺れていた。

「じゃあアタシと変わんないね。フェンリル」

 キュッリッキの合図に、フェンリルは仔犬の姿を解いて、狼の姿に戻った。

 フェンリルの背に飛び乗ると、キュッリッキはブルニタルに手を差し出した。

「アタシたちは、取りこぼしの掃除と見学!」

 まだ照りつける太陽の下、辺りには遮るものもなく、見晴らしの良い麓の広場に、ソレル王国軍は山裾に伸びながら固まっていた。

 そこを目指し、ガエルとメルヴィンは駆けていく。小石を多量に含んだ地面は足を取られやすかったが、2人は一定の速度を保ったまま、安定して走っていた。

 200人弱に対して、こちらはたった2人。しかし、ガエルもメルヴィンも迷うことなく敵の只中に突っ込んだ。

 突如現れた2人組に、ソレル王国軍は何事かと慌てている。一気に騒然となり指揮系統が乱れ、ほぼ個人の意思で対応する形になっていた。

 ガエルとメルヴィンは二手に分かれ、咄嗟に動けずにいるソレル王国兵を容赦なく攻撃する。

(フッ、これは良いものだな)

 敵からの攻撃が、全て無効化されていく。敵の攻撃が届く前に見えないものが防御し、しかし自分で繰り出す攻撃は阻害されない。

 本来食らう筈のダメージがないので、煩わしいことを気にせず戦える。これほど爽快な戦闘は初めてのことで、いつもよりガエルの気分は高揚していた。

 キュッリッキが召喚したガラス板のようなものが、防御してくれているおかげだ。

 今回のように200人弱の、中隊規模の兵士たちを一斉に相手にする場合、無傷でいることは絶対にありえない。まして、攻撃自体も阻まれ前進も難しいだろう。仲間全員でサポートしあっても、こんな風にはいかない。

 怪我の痛みに耐え、疲労にも屈せず得る勝利こそ最高! などど、マゾいことを考える性格でもない。いかに邪魔されず阻まれず、己の全力を叩き込めるかだけだ。

 日々精進と鍛錬を欠かさず、己のパワーはどこまで伸びるのか、それが試したくてフリーの傭兵になった。今まさに、それを試せるのだ。

 200人弱の中隊兵たちを、たった2人で相手にする。そのシチュエーションも、より興奮に繋がっていた。

 ガエルのスキル〈才能〉は、とくにトゥーリ族ではもっとも多く生まれて持ってくる中の一つ『戦闘』だ。

 この『戦闘』スキル〈才能〉は大雑把に、肉体を武器にする格闘系と、武器を扱う系統に分けられ、さらに細分化していく。

 大抵一人ひとつだけの得意な体術や武器使いなどになるが、稀にその系統の複合スキル〈才能〉を持って生まれてくる者もいる。レアスキル〈才能〉の次に貴重なスキル〈才能〉だった。

 ガエルとヴァルトは肉体を武器にする、格闘系の複合スキル〈才能〉持ちだ。

 スキル〈才能〉には強さのランクがある。とくに『戦闘』スキル〈才能〉は、ランクが重要視された。

 最低ランクはDとC、平均はC+とB。ちょっと良くなってB+。一般的にはBとB+までのランクが標準とされている。Aランクからは最高ランクと呼ばれ、あまり多くはいない。

 ライオン傭兵団が世間に名を轟かす理由の一つが、一部例外を除き、皆最高ランクのスキル〈才能〉持ちだからだった。

 ガエルは格闘系複合スキル〈才能〉のSSランク、メルヴィンは武器系剣術スキル〈才能〉SSランクだ。

 嫌でも戦闘と向き合うことになる軍人たちの中には、『戦闘』スキル〈才能〉を持たない者もいる。頭数合わせの徴兵たちだ。そうした者たちとスキル〈才能〉持ちでは、戦闘力に歴然の差があり、そこからランクが高い者が相手だと、軽い喧嘩でも命懸けになってしまう。最高ランクのスキル〈才能〉を持ち、さらに熊と人間二つの特徴を兼ね備えるトゥーリ族であるガエルのパワーは、一般兵程度じゃ防ぎきれたものではなかった。

 ガエルが拳を振り下ろすたびに、複数の人間が雑草のようになぎ倒され、蹴りを入れるたびに宙を舞った。直接拳を叩き込まれた兵士は、兜が割られ頭部が爆ぜる有様だ。

 この戦場でガエルに太刀打ち出来る者は、ソレル王国軍には一人も存在していないようだった。

(さすがガエルさん、相変わらず凄いなあ。オレも負けていられませんね)

 ガエルの勇猛ぶりを目の端に留めながら、メルヴィンは剣を繰り出した。

 戦闘の武器系剣術スキル〈才能〉のSSランクを持つメルヴィンも、ガエルに劣るものではなかった。

 長剣、短剣、変わり種の刀身でも、一刀でも二刀でも自在に使いこなす。

 白刃が唸り風を生み、生首が青空に弧を描いて跳ねあがる。四方八方から襲いかかる敵を、円を描くようにしながら剣を繰り出していった。その様は、華麗な演舞のようにさえ映る。無駄なものなど一つもない、完璧な太刀筋だ。

 ソレル兵たちの身につけている防具は、薄くした鉄と厚い革をなめしたものを組み合わせていて、この湿気を多量に含む中で着用するには、風通しも悪く暑苦しいだろう。きっちりと縫い目も防備されているため、剣で斬り裂く為には、スピードやパワーが必要だった。

 それが判っているメルヴィンは、無用な斬り合いをせず一閃で終わらせるために、正確に頭部と首の付け根を狙い跳ねていった。それが難しい場合は、フランベルジェで急所を突いて致命傷を与えた。

 ハワドウレ皇国の正規部隊に所属していたことのあるメルヴィンは、皇国で五指に入るほどの剣術使いとして有名だった。御前試合でも何度か優勝したことがある。そのメルヴィンが退役するとき、大将たちが列を作って、メルヴィンの退役を思いとどまらせようとしたことがあるという。そんな逸話が残されているくらいだ。

 向こうへ逃げればクマ男に殴り殺され、こっちへ向かうと斬り殺される。ソレル王国兵は恐怖に全身を貫かれながら、為す術もなくジリジリと後退している。

 あたりを赤い濃霧のように舞う血飛沫や、断末魔と恐怖で沸き起こる悲鳴、怒号や爆音などが麓を騒がす。魔法使いたちの放つあらゆる魔法攻撃も全て防がれ、弾かれた魔法が味方にあたって惨劇がさらに広がる。まさに一方的な殺戮の場と化していた。

 ナルバ山の麓はあっという間に凄惨な姿に塗り変わり、ブルニタルはあまりの光景に口元を抑えた。

 信じられないスピードで死体の山が築かれていく。仲間たちの武勇はよく知っているつもりだったが、ブルニタルは殆ど後衛に徹しているため、前に出て彼らの戦闘を見たことがなかった。

 ブルニタルとは反対に、キュッリッキは表情一つ動かさず、無感動に死体を眺めおろし、ソレル兵たちを倒し進む二人の背中に視線を向けた。

 返り血も全て見えない防御で弾かれて浴びていない。アルケラから招いた友達の働きぶりに、キュッリッキは嬉しそうに目を細めた。

 これまで召喚の力は、一方的な攻撃か、護衛で依頼主を守るために、敵を攻撃するくらいにしか使ったことがない。こんな風に、仲間の強化支援で火力の底上げをしたり、防御をして助けたりするのは初めてだ。

 自分の力がしっかりと役立っていて、キュッリッキは嬉しくて仕方がない。

(2人とも、ホントに強いんだね~。ガエルもメルヴィンも、カッコイイなあ)

 貢献出来ていることが、本当に嬉しい。気持ちがそのまま表情に浮かんで、凄惨な戦場には似つかわしくない笑顔になっていた。