片翼の召喚士 ep.30 救出作戦(1)

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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片翼の召喚士 ep.30 救出作戦(1)

 翌日、朝食後にカーティスから、今回の仕事の件での、作戦と班分けが通達された。

 キュッリッキは、とてもワクワクしていた。ライオン傭兵団としての彼らとの仕事は、今回が初めてなのだ。

 入団テストの時は、一緒にいたギャリーたちは見学をしていただけで、仕事はしていない。

 彼らがどんな風に仕事をするのか、最強の噂は本当なのか、これからそれを見ることができる。そして、確保部隊のキュッリッキは、支援や強化等、あらゆることを担当するよう言われていた。

 ガエルは戦闘の格闘複合スキル〈才能〉を持ち、肉体そのものを武器に暴れまわる。

 メルヴィンは戦闘の剣術スキル〈才能〉で、ハワドウレ皇国でも五指に入るほどの実力者だと言う。更に魔剣も備えているそうだ。

 ブルニタルは記憶スキル〈才能〉を持つ軍師なので、戦闘は直接行わない後衛だ。

 記憶スキル〈才能〉とは、一度目にしたもの、耳にしたもの、味わったもの、触れたもの、感じたものの全てを記憶に留め、死ぬまで絶対に忘れない。記憶障害や痴呆症とも無縁であるという。

 一見地味なスキル〈才能〉に思われがちだが、これは凄いスキル〈才能〉である。人間は、必ず忘れる生き物だ。それなのに、死ぬまで一生全てを覚え続けていられる。その反面、忘れたいことも覚え続けるから、ある意味精神がタフでないと厳しいとも言われていた。

「みなさん頑張ってくださいよ。そして報酬は期待していいですからね。依頼主はベルトルド卿なので、ガッポリふんだくれます」

 オーッ!と喜びの声が食堂を震わせる。稼いでなんぼの傭兵なのは、どこも共通の精神だ。

 キュッリッキもみんなと同じように、両手を挙げて気合を入れた。

「では、準備は昼までに終わらせてください。昼食を済ませたら出発です」

 ライオン傭兵団が出発の準備に勤しんでいる頃、今回の依頼主であるベルトルドは、執務室の窓際に立って、空を眺めていた。

「おはようベル、珍しいじゃない、あーたが先に出仕してるなんて」

 リュリュが執務室に入ってきても、ベルトルドは微動だにしなかった。

「どうしたのん? こんなに天気がいいのに黄昏ちゃって」

 ベルトルドの隣に立ち、顔を覗き込む。

「オデットが旅立った」

 たっぷりと間を空けて、

「は?」

 とリュリュは訝しんだ。そしてデスクの上の隅にあるカゴを見ると、チンチラがいない。

「恋の季節なんだそうだ。この俺より良い男を見つけ、子供を作って所帯を持つんだと言っていた」

 フッと悲しげに微笑み、ベルトルドは目頭を押さえた。

「きっと、俺が恋をしたから、だからオデットは身を引いたんだな」

 リュリュは三流の昼メロならぬ朝メロを見ている気分で、何と答えていいか頭をぐるぐるさせていた。

「ねずみうさぎのくせに、健気なやつだ。ねずみうさぎにしておくには勿体無いほどだ、なあ」

 なあ、と言われましても!? と、リュリュは垂れ目を眇めた。それに、ねずみうさぎではなく、チンチラだと教えても覚えやしない。

「まあ、この俺に匹敵する、あるいは上回るほどの男なんぞ、この世のどこを探してもおらんだろうが、ねずみうさぎには、そこそこの男はいるかもしれん。この俺が見込んだ女だ、良い男を捕まえて、幸せになって欲しい」

(小動物の言葉が、ほんとに判るのかしら…? Overランクって凄いのねえ…)

 キザったらしく言うベルトルドを胡散臭げに見て、リュリュは呆れたように首を振った。

 後日、姿を消したチンチラのオデットは、世話係をしていたエーメリ少年の宿舎に現れ、エーメリ少年と幸せに暮らしているとのことだった。そのことを、ベルトルドだけは知らなかった。

 ハワドウレ皇国があるワイ・メア大陸の、ちょうど反対側にあるモナルダ大陸。南の海岸地方の一部を、ハワドウレ皇国から統治を任された、メリロット子爵家によって興されたのがソレル王国だ。ソレル王国はとくに、超古代文明の遺跡が多く出土し、その遺跡から発見された名を取って、国の名としている。

 ソレル王国が所有するエグザイル・システムは2つ。一つは首都アルイール、もう一つは、なぜか首都から遠く離れた辺境の小さな村カバダだった。

 エグザイル・システムは物質転送装置で、世界中の至るところに存在している、超古代文明の遺産の一つと言われていた。人々はエグザイル・システムのあるところを中心に、村や町を興した。

 カバダ村もきっとそうだったのだろうが、エグザイル・システムのある建物から外に出ると、砂に飲み込まれた廃墟があった。

「数十年くらいは経っていそうな光景ですね、ここ」

 メルヴィンは眩しい太陽の光を遮るように、手をかざして目を細めた。外へ出た途端、眩しい光とむわっとした空気が押し寄せてきて、自然と不快げに顔が歪む。

 石造りの神殿のような中にエグザイル・システムはあるが、こもる空気は黴臭く、新鮮な空気を求めて外に出ると、この湿度と熱気だ。

 ソレル王国は湿潤な気候で、真夏を前にして気温が高いうえに、とにかく蒸し暑い。おまけに清々しいほどの晴天だった。まだ5月の終わり頃だが、すでに夏の気温である。

「……なんだこの蒸し暑さは…、サウナの中にいるようだ」

 普段無口なガエルが、いつになく文句を呟き続けていた。愛嬌ある動物のクマと違い、引き締まった鋭い顔をしている。しかし、今はあまりの暑さに、顔が弛緩していた。

「やっぱ、クマさんだから暑いの?」

 下から見上げるキュッリッキが、不思議そうに言う。

「俺の育った土地は比較的寒かったし、乾燥していたからな」

「そうなんだ~」

 顔を覆う短い黒い毛が、いかにも暑そうに湿っていた。

 2メートルを越す巨体は、同じように背が高いヴァルトと違い、重厚な筋肉に覆われていてどっしりとしている。しかしその筋肉も覆った黒い毛は、この湿度の中ではさぞ鬱陶しいだろう。

 あまり口を開かないガエルが、いつになく文句モードに入っているので、キュッリッキにしてみたら、珍しく面白かった。ガエルが弱音を吐くところなんて、そう滅多に見られないだろう。

 隣に立つキュッリッキが、目を輝かせて見上げてくるので、ガエルは不吉を感じて眉間を寄せる。

「暑くてしょうがないから、抱きついてくれるなよ」

「はーい」

 腕に飛びつこうと狙っていたのに、牽制されてしまい、キュッリッキは肩をすくめた。アジトにいるときなら、飛びついてもぶら下げてくれていたのに、さすがにこの暑さの中では嫌なようだった。

 3人から少し離れた建物の影のあるところで、地図を見ていたブルニタルが、では皆さん、と声をかけてきた。

「ここから半日ほどの距離にあるナルバ山に、例のエグザイル・システムのようなものがあるようです」

 ブルニタルは真っ直ぐ西を指さした。