片翼の召喚士 ep.28 ベルトルドからの依頼(8)

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
この記事は約7分で読めます。

片翼の召喚士 ep.28 ベルトルドからの依頼(8)

「さて、もう夕飯ですし、食べながら話をしましょうか」

 カーティスもルーファスも席に着く。

 キュッリッキも空いている席に座ろうとしたら、隣に座れとザカリーに手招きされ、思いっきり迷惑だという表情をして、ツンとそっぽを向いた。そしてメルヴィンとシビルの間に空いている席に座った。

 その様子に、ギャリーとルーファスが露骨に冷やかし笑う。

「るっせーおまえらっ」

 顔を真っ赤にして、ザカリーは二人に怒鳴った。

 キリ夫妻が食事の乗ったワゴンを押してきて、ヴァルトが手伝いに行く。肉料理、魚料理、オードブルにつまみ、ピラフやパンの盛り合わせ、サラダにフルーツ、デザート類などなど、美味しい匂いを放つ大皿が所狭しと並んでいく。

「今日も沢山のご馳走を作ってくれたキリ夫妻に感謝して、いただきます」

 カーティスが両手を合わせて言うと、皆元気に「いただきまーす!」と声を上げて、食事が始まった。

「肉を食え肉を、ほら、キューリ食え」

「そんないっぱい食べらんないってば~~」

 ギャリーは鶏肉のローストを切り分けて、3人前ほどもある量を皿に盛り、キュッリッキの前に置く。

「残してもいいから食え。仕事入ったんだ、体力つけろ」

「うにゅぅ~~」

 鶏肉は嫌いじゃないが、量が多すぎる。キュッリッキはしかめっ面で肉の山を睨みつけていたが、

「オレにも少し、分けてください」

 隣でメルヴィンが、取り皿をキュッリッキの方へ差し出した。

「うん、あげる」

 キュッリッキは喜々として、ここぞとばかりに、2人前分をメルヴィンの皿に分けた。

「あ、ありがとうございます」

「えへへ」

 無邪気に笑むキュッリッキの顔を、やや引き攣りながら微笑み返した。

「キューリさん、これは一人分ですからね」

 メルヴィンとは反対側の隣に座るシビルが、ミートパイとスコッチエッグ1個を乗せた皿を、キュッリッキの前に置いた。

「お肉ばっかり…」

「キューリさんはカロリー高めのものを、たくさん食べないとダメですよ。痩せすぎなんですから、少しは脂肪つけてください」

「はーい」

 シビルはタヌキのトゥーリ族だ。背丈は人間の子供くらいしかなく、タヌキの外見に二足歩行する幼児体型な身体、手脚はやや短い。尻の部分にふっくら生えている、フサフサの縞々尻尾が大きくて可愛らしかった。

 世話焼きな性分で、椅子の上に立って、小さな手で料理を色々取り分け、みんなに配っていた。これでもAAAランクの魔法スキル〈才能〉を持っている。

「肉は嫌いですか?」

 メルヴィンに訊ねられて、キュッリッキは首を横に振る。

「好きだけど、沢山は食べられないの。とっても美味しいんだけど」

 お世辞じゃなく、本当に美味しい。

「胃袋が小さそうですね。慌てず、ゆっくり食べてください」

「うん」

 肉ばかりでは口の中が辛いので、時々柔らかいパンや温野菜を交えながら、取り分の肉を食べていく。

〈貴様ら、この俺を待たせて、呑気に食べ続けるな!〉

 食事で賑わう場に、落雷のような怒号が振り落とされた。

 食べることに夢中で、すっかり忘れてたとは、口に出して言う勇気はない。あんまり怒らせると、空間転移で乗り込まれてきそうだからだ。実際、過去数件前例がある。

「すみません。たまには可愛い団員たちの、楽しい食事風景の音声だけでも、お届けできればと思っていました」

 カーティスはシレっと言うと、軽く咳払いをする。

〈そんな音声、お届けされても嬉しくないわ!〉

 もっともである。

「では皆さん、私語は慎んで下さい。仕事の話に入りますよ」

 カーティスはワインを一口飲むと、持ってきていた書類を取って、ページをめくりはじめる。

「久しぶりの大仕事になりますね。ベルトルド卿からは許可をもらっているので、全員で出動します」

 おお、と食堂内がざわついた。

「西のモナルダ大陸にある、ソレル王国内で出土した、エグザイル・システムのようなものに関連したお仕事です。それを調査しに行ったアルケラ研究機関ケレヴィルの研究者たちを、ソレル王国軍が逮捕したとのこと。我々はそのケレヴィルの研究者たちの奪還と保護、エグザイル・システムのようなものの奪還と保護をしなければいけません」

「カーティスさん、エグザイル・システムのようなもの、とは、何なのですか?」

 メルヴィンが問うと、

〈のようなもの、とだけ判っただけなようだ。詳細な報告が届く前に、逮捕されてしまった〉

「なるほど…」

 ベルトルドが回答して、メルヴィンは恐縮したように頷いた。

「一国の軍相手か。暴れてもいいんですかい? 御大」

 ギャリーが顎に生えた無精髭を、ザリザリと摩りながら言う。

〈もちろんだ。ケレヴィルは俺の配下の組織だからな、不当に拘禁したということは、この俺に手袋を投げつけたと同等のことだ。遠慮なんかいらん、徹底的に殺ってしまえ〉

「へ、へいっ!」

 ――怒ってる。この人完全に怒っている。

 キュッリッキとキリ夫妻を抜かした全員が、じっと皿を見つめながら怯えだした。

〈ソレル王国なんぞ、たかが属国の身分でしかない上に、副宰相であるこの俺に喧嘩を売ったんだからな。許さんぞ、絶対に許さん!〉

 ヒイイイッ! 食堂のあちこちから抑えた悲鳴が響いた。

 ふてぶてしい代表でもあるヴァルトですら、怯えの色を隠さず震えている。隣のメルヴィンやシビルも、青ざめた顔で俯いていた。

 キュッリッキは目をぱちくりさせて、みんなの様子を見て首をかしげた。そして、シビルの服を軽く引っ張って、声を潜めて問う。

「ねえ、なんでみんなベルトルドさんのこと、こんなに怖がってるの?」

 シビルはつぶらな目を細め、さらに声をひそめて応じる。

「…詳細はそのうち教えてあげますが、我々はベルトルド様の恐ろしさを、身を持って知っているんです。声の調子だけで、喜怒哀楽が判断できるくらいに」

「んー…、そんな怖そうなヒトには見えなかったよ。滲み出るような迫力はあったけど、ハンサムなおじさんだったし」

〈こら、リッキー、そこはハンサムなおにいさん、でいいんだぞ〉

「はにゅ! ごめんなさい」

 キュッリッキとシビルは同時に跳ねあがった。

(じ……地獄耳なんだあ)

 ビックリしながら肩をすくめて、キュッリッキは小さくなって座り直した。

「あまりみんなを脅さないでくださいな。あなたの怖さを知らないキューリさんですら、萎れちゃいましたよ」

 カーティスは肩の小鳥に、抗議するような視線を向ける。

〈安心していいぞリッキー。愛しいリッキーだけは、この世で一番大好きだからな〉

 これまでとは打って変わって、優しいく甘い声が、キュッリッキに向けて投げかけられた。

「ふぅ、良かったの~」

 キュッリッキはホッとしたように笑顔を見せた。しかし、他の皆は爆弾発言を聞いたかのように、ギョッとした顔をキュッリッキに向けていた。

「ん?」

 周りの視線に気づいて、キュッリッキは不思議そうに目を瞬かせた。

〈兎に角、今回の件では、貴様たちの好きなように大暴れして構わん。結果ソレル王国が滅んでもいい。全ての責任は俺が持つから、手を抜くことなく、徹底的に殺れ〉

 事実上の、ソレル王国への処刑宣告だ。

 すでに非公式にではあるが、ソレル王国側からハワドウレ皇国に、宣戦布告しているようなものである。公なことではないので、ベルトルドが私的にライオン傭兵団を使って、ケレヴィルの研究者たちを奪還するという方法を、取ろうとしているが。

 もしこれが公の下の行動であれば、ハワドウレ皇国は正規軍を動かさざるをえなくなる。しかし、一介の傭兵団が動いた程度では、戦争には発展しない。

「では、食事が済んだら、ブルニタル、メルヴィン、ミーティングをしますよ」

「はい」

「判りました」

「出発は早いほうがいいですか?」

〈出来ればな。研究者というものは、体力とは無縁だからな〉

「判りました」

 傭兵とは正反対だろう。早めの救出を試みなければ、すでにヤバイ状態の研究者もいるんじゃないだろうか。カーティスは内心、先が思いやられると、溜め息をこぼした。

〈ああ、そうだ。拘禁されてる連中に、シ・アティウスという男がいると思う。他の研究者たちは見捨てても、そいつだけは確実に救出して欲しい〉

「…判りました」

〈さて、俺の悪口も気楽に言えんだろうから、これで俺の通信は切ってやろう。吉報のみを寄越せ、報酬は弾んでやる〉

 そう言って、小鳥は口をつぐんだ。

 ちょっと間を置いたあと、食堂にホッとした空気が静かに流れた。

「ベルトルド卿の個人的な事情も、一枚噛んでいるようですね」

 簾のような前髪の奥の目が、スッと細められる。

「御大はケレヴィルの所長もしているしな」

 ギャリーは頷きながら腕を組む。

「さてみなさん、早々に食事を済ませてしまいましょう。時間も長引いてますし、これではキリ夫妻が片付けられません」

「そうだな」

 みんなそれぞれ頷きながら、食事を再開した。

「アタシ、お皿洗い手伝うね」

 キュッリッキがキリ夫妻に声をかけると、キリ夫人が嬉しそうに頷いた。

「助かるわ。ありがとう、キューリちゃん」

「……おばちゃんまで、キューリって呼ぶんだね…」

 ガックリと肩を落とすキュッリッキに、メルヴィンが苦笑を漏らした。