片翼の召喚士 ep.4 スカウト(4)
「入団テストだとぅ~? 偉そーに」
「ほっといてください。これは私のポリシーです」
「何がポリシーだ、青二才のくせに」
「ライオン傭兵団を作ったのは私です。団員の選定は、私がします」
譲れないものがある、そう意思を込めてベルトルドを睨む。真っ向から睨んでくるカーティスを涼しい顔で見やり、ベルトルドは不満そうに鼻を鳴らした。
静かに白熱しかかる場に、キュッリッキは一歩前に踏み出した。
「アタシ、受けるよ、入団テスト」
カーティスをしっかり見上げて、キュッリッキがきっぱりと声を上げた。
「実力を示せば、ココに入れてもらえるんだね?」
「ええ、そうですね」
「判った」
顎を引いて、キュッリッキはグッと拳を握った。
(確かに何も知らずに入れてくれるところなんて、せいぜい二流か三流の傭兵団くらいだもん。誰もが召喚スキル〈才能〉を持ってるって聞いただけであっさり許可をするし。そうしないだけ、ここは実力重視の傭兵団なんだわ)
そして、困惑げなベルトルドを振り返る。
「ベルトルドさんありがとう、ここまで連れてきてくれて」
「キュッリッキ…」
「大丈夫、アタシ入団テスト頑張るね」
にこっと笑うキュッリッキを、ベルトルドはたまらず抱きしめた。
「本当に愛らしい子だキュッリッキ!」
ぎゅっと抱きしめ、滑らかなキュッリッキの頬をスリスリと頬ずりする。いきなりの行動にキュッリッキは硬直して、されるがままだった。
ここぞとばかりにキュッリッキの滑らかな頬を堪能していたベルトルドは、ピタッと動きを止めて、嫌そうに眉を顰めた。
「ああ、判った判った、すぐに戻る」
忌々しげに呟いて、名残惜しそうにキュッリッキから身体を離す。
「もっと一緒にこうしていたいのだが、もう戻らないといかん。会議に遅れてしまうからな」
「もしかして、お仕事抜けてきちゃったの?」
「まあ、そうだな」
悪びれず笑うベルトルドに、キュッリッキは困ったような薄笑いを向けた。
「というわけで、もう戻る。リューにせっつかれて、尻の穴に危険を感じるのでな」
「……」
「キュッリッキのことは、よろしく頼むぞ」
「判りました」
「念押ししておくが、お前が納得せんでも、キュッリッキは入団させる。いいな」
「それを決めるのは、リーダーの私です」
「っとに可愛げのない…。では、まただ、キュッリッキ」
カーティスには特大の不満顔を向け、キュッリッキには優しい笑顔を向けて、ベルトルドはその場からスッと消えた。
「えっ!? 消えちゃった??」
飛び上がってキュッリッキが驚いていると、クツクツとカーティスは笑った。
「あの御仁はサイ《超能力》を持っています。今のは空間転移、現在確認されているサイ《超能力》使いの中で、あの人しか使えないそうですよ」
「うわあ……凄いんだねえ」
キュッリッキは心底感心しながら、ベルトルドの消えた空間をジッと見つめた。
「御大帰ったのか?」
ベルトルドが消えて少しすると、荷物を抱えた3人の男が、ガヤガヤと階段を降りてきた。
「ええ、今しがた。お土産を一人置いて」
「土産?」
タバコを咥えた無精ひげの男が、ぬっと顔を突き出しキュッリッキを見おろす。
「こりゃまた美少女だな、新規採用のメイドか?」
「違いますよ」
「おっ! スゲー美少女じゃんか。名前なんて言うんだい?」
赤毛の男が横から顔を突き出してきた。
「……キュッリッキよ」
身をすくめながら、キュッリッキは困ったように顎を引いて上目遣いになる。
(なんでアタシ見てメイドって発想になるのよ…)
内心ムッとする。
「彼女はベルトルド卿がスカウトしてきた、召喚スキル〈才能〉を持つ傭兵です」
「召喚スキル〈才能〉だとぅ!?」
「マジかよ」
異口同音に驚愕の声が玄関ホールに轟く。改めてマジマジと見つめられて、キュッリッキは肩をすくめた。
(もう、見世物じゃないんだからっ)
「私も仕事着に着替えてきます。ルーファス、彼女を空いてる部屋に案内してあげてください」
「おっけーい」
「そこで、仕事着に着替えてきちゃってください。今から仕事に行きますよ」
「あ、はい」
一瞬、仕事着なんてない、と言いそうになって、慌てて返事のみをする。仕事着に使ってと、ひと揃の服をもらっていたことを思い出したのだ。
カーティスが廊下の奥へ消えると、金髪の男が柔らかな笑顔でキュッリッキの前に出た。
「キュッリッキちゃん、かな。キミの使う部屋に案内するね」
「はい」
「オレはルーファス。こっちのむさっ苦しいのがギャリー、こっちの赤毛はザカリーって言うんだ。さっきのカーティスとキミと合わせて5人で仕事に向かうから、ヨロシク」
恐る恐るといった様子で、キュッリッキはギャリーとザカリーに、ぺこっと会釈をした。
「こっちだよ、おいで」
「う、うん」
ルーファスは小さなリュックをザカリーに預けると、スタスタと階段へ向かう。その後ろをキュッリッキは小走りに追いかけた。
「ウチのアジトは元は宿屋だったのを買い取って、改装して使ってるんだ。だから、各自個室がちゃんとあるんだよ、ちょっと狭いけど」
「へえ…」
「他所の傭兵団とかだと、個室なんてナイのがアタリマエで、雑魚寝が普通とかなんとからしいでしょ。少数精鋭だから出来る贅沢ってやつだね~」
「うん」
個室が与えられる傭兵団は稀なほうである。
「まあ、心配しなくても大丈夫だよ」
ルーファスは立ち止まると、後ろを歩くキュッリッキを肩ごしに振り向いて、にっこりと笑った。
「ベルトルド様が入れろ、と言ったんだったら、もうキミは入団決定だから」
「そう、なんだ…」
「ウチの後ろ盾の命令だから、カーティスでも逆らえないし。でも、オレたちの仲間になるためには、入団テスト頑張らないとね」
己の腕一つで身を立てる、それが傭兵だ。どんなスキル〈才能〉を持っていようと、戦力になるのだと、示さなくてはならない。
「うん、判ってる」
キュッリッキが案内された部屋は、建物の端にあった。
5坪ほどであまり広くはないが、ベッド、文机と椅子、ハンガー掛けができる大きめのチェストが備え付けられていた。常に掃除がされているのか、室内は清潔で綺麗だ。
「オレは廊下で待ってるね」
「ありがとう」
ドアを閉めてベッドの傍らに立つ。キュッリッキは紙袋を逆さまに持つと、ベッドの上に中身を撒き散らした。
ファサッと音を立てて落ちた衣服を見ながら、ポシェットを外してワンピースを脱ぐ。そして手早く衣服を身につけた。
「……」
姿見の鏡がないので、角度を変え変え着崩れていないかチェックする。
軽く両手で頬を叩き、気合を入れた。
「よし」
コメント