片翼の召喚士 ep.5 入団テスト(1)

chapter-1.ライオン傭兵団編
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片翼の召喚士 ep.5 入団テスト(1)

「お待たせ~」

 部屋から出てきたキュッリッキを見て、ルーファスはちょっと目を見張り、そしてウンウンと頷いた。

「とっても可愛いけど、今にも踊りだしそうだねえ」

「……やっぱ、そう見えるよね」

 ルーファスのストレートな感想に、キュッリッキは薄く笑う。

 トップとアンダーに黒い飾りのついた、白いシルクのビスチェに、幾何学模様のプリントされた青紫色のシルクの上着と、同じ布のフリルが2段になったミニスカート。そして薄紫色のゆったりめのズボンと、紫色のシューズ。袖もゆったりとしているし、全体的に踊り子がまとうようなデザインになっていた。

 身につけながら、薄々そんな気はしていたのだ。なにせ、この服をくれたのは旅芸座の少女である。

「ん~、ズボン脱いだら、普段着っぽくなるんじゃない?」

「パンツ丸見えちゃうからダメなの!」

 超ミニのスカートの下に、ゆったりめのズボンを履いている。スカート丈はかろうじて下着を隠すギリギリのところまでしかないため、スパッツでも履けば問題なさそうだが、生憎今は持っていない。

 踊り子のような仕事着に着替えたキュッリッキを見ていたルーファスは、

(これでオッパイがおっきかったら、完璧なのになあっ!)

 と、谷間のない胸に視線を注ぎながら、心底悔しそうに、心の中で握り拳を作った。

 玄関ホールに降りていくと、着替えたカーティスも合流して、2人を待っていた。

「踊り子もやっていたんですか?」

 真顔でカーティスに言われて、キュッリッキは「やってなーい!」と顔を赤らめて否定した。

「イカガワシイ格好の手品師風情に言われたくないよね~」

 ルーファスが笑いながら言うと、

「確かに、ちっぱい娘よりド派手だしな」

 そうギャリーがにんまりと続く。

「ちっぱいって言うなっ!」

 気にしてるのに!とキュッリッキが噛み付かんばかりにギャリーに抗議するが、

「ホントのことだから、そう怒るな怒るな」

 グリグリと頭を撫で繰り回され笑われた。キュッリッキは更に憤慨し、グーを作ってギャリーをポカスカ叩く。その様子に、ルーファスとザカリーが大笑いした。

「全く、失礼な人たちですね。私を手品師みたいに言わないでくださいな。これこそが魔法使いの正装です」

「……まあ、自分が満足してりゃいいんじゃね…」

 すましたカーティスに、ルーファスはげっそりと呟いた。

「それでは皆さん、行きますよ」

「うぃ~っす」

 エルダー街から歩くこと20分ほどの距離に、行政街との異名を持つクーシネン街がある。役所関係の建物が多く並び、図書館や公共病院、公共関連施設などが建つ。それでイララクスっ子はここを『行政街』と呼んでいた。

 そしてクーシネン街には、もう一つ重要な施設がある。

「はあ~、今日も賑わってるな、エグザイル・システム」

「皇都唯一のエグザイル・システムですからねえ」

 うんざりするようなザカリーの呟きに、カーティスが負けじとうんざり返した。大混雑しているのは一目でわかる賑わいだ。

「順番を待ちながら、仕事についての説明をしましょうか」

 広く方形に仕切られた敷地には、豪奢な宮殿のような建物が建っている。ここが、皇都イララクスにあるエグザイル・システムの建物だ。

 ファサードは大きなアーチ状の入口があり、大理石の壁面を繊細な彫刻が彩り、所々黄金細工でより絢爛に飾られていた。

 人々が多く出入りする中を突っ切るように建物の中に入ると、フロア正面には圧倒されるような大階段がずっと続いている。天井はドーム状に高く吹き抜け、ステンドグラスや壁画が描かれ内装も豪華だ。

 三階建てになっていて、玄関フロアに面した各通路の端々には、休憩できるよう長椅子が置かれている。椅子に座り談笑を楽しむ人々、疲れを癒す人々など、フロアはたくさんの人々で溢れかえっていた。

「いつきても、大賑わいだね」

「皇都の玄関口だしね。24時間大混雑さ」

 キュッリッキの呟きを受けて、ルーファスが微苦笑気味に言った。器用に人を避けて歩いていても、誰かに当たってしまうほどの混みようなのだ。

 5人は出入国手続きのカウンターに行き、各自傭兵ギルド発行の身分証明証を提示する。

 傭兵ギルドに登録している傭兵たちには、ギルドから必ず発行されるものだ。掌サイズの小さなカードで、これがあると面倒な手続きが免除されたり、各支部で援助を受けることができる。また、仕事上のトラブルで国の機関に容疑をかけられたり、逮捕されたりすると、ギルドが仲裁に入ってくれるなど、傭兵たちにはなくてはならないものだった。無論、犯罪を犯せば取り上げられる。

「今回の仕事は、サントリナ国の軍上層部からの依頼です」

 手続きを済ませた5人は、エグザイル・システム前に長蛇の列を作る最後尾に並んだ。

「サントリナ国のお隣には、ソープワートという国がありますが、長年ご近所トラブルが絶えず、今度もまた、しょーもない理由で戦端が開かれようとしています」

(あの国ってまた喧嘩するのかあ…)

 サントリナ国とソープワート国の仲の悪さは、キュッリッキもよく知っている。以前ちょっとした小競り合いに鉢合わせたことがあるのだ。

「互の国境沿いの一部で、ドンパチやらかすようで、我々には両軍が動く前に、ソープワートの軍隊を殲滅して欲しいというんです」

「うーん、なんで?」

 キュッリッキは小さく首をひねった。互いにドンパチやりたいから、小さな喧嘩にもいちいち軍を投入するだろうに。そこへ、傭兵を雇って相手の軍を倒す意図が、いまいち見えてこない。

「理由は二つ。一つは不作による国庫への深刻な打撃。二つ目は、チャイヴズ将軍が出撃していることです」

「チャイヴズ将軍?」

「ソープワート国唯一の聡明な軍人と言われています。この方が出撃すると、サントリナ国は必ず負けるでしょう。そのくらい作戦も指揮も完璧なご老体です」

「そうなんだ…。でも、だったら戦争なんてやらなきゃいいのに。国が危ない時なんでしょ」

「そこはホラ、頑固ジジイたちの、ミヂンコみたいなプライドの成せる技ってやつさ」

 肩をすくませながら、ルーファスが苦笑した。

「ふーん…。で、アタシはどうすればいいの?」

 戦争の経緯や依頼国の状況など、正直どうでもいいので、キュッリッキは先を促した。知ったところでやることは変わらないからだ。

「両軍とも国境沿いの谷間に移動して、明日の正午辺りに戦端が開かれる予定だそうです。それまでに移動して、私たち4人で奇襲をかける計画でした。でも、この奇襲を、あなた一人でやってもらいます」

「はぁああ~~?」

 それまで黙って話を聞いていたザカリーが、素っ頓狂な声を上げた。

「おいカーティス、それは流石にナイだろ。恐らく一個大隊くらいの戦力を投入してくるぞ、チャイヴズのじーさんなら」

「だなあ。召喚スキル〈才能〉?ってぇもんが、どんなものか知らねえしな、一人でやらせんのは危ないだろう。オレらと一緒に攻撃なり支援なりをさせたほうがイイんじゃねえのか?」

「オレもそー思う。失敗したらシャレになんないよ?」

 ザカリー、ギャリー、ルーファスの3人から反対されても、カーティスは顔色一つ変えず、キュッリッキをジッと見つめた。

「あのベルトルド卿が自信を持ってスカウトしてきた子です。どんな戦局でも、悠然と勝利を導くことが出来る力を持っているんでしょう」

 カーティスの言葉を受けて、キュッリッキは内心呆れたように溜め息をついた。

 これまで聞かされた話から推察するに、カーティスは単純にベルトルドに介入されるのが嫌なのだろう。それで、入団テストを意地になって実行しようとしている。キュッリッキを通り越して、背後のベルトルドに挑戦を叩きつけているようなものだ。

(新しい仕事が欲しかったし、有名どころの傭兵団に入るチャンスだもん。入団テストを蹴ってもライオン傭兵団にいることは出来るだろうケド、仕事も与えられず、タダ飯喰らいの居候になって、居づらくなって自分で出ていく羽目になっちゃう)

 ならば、受けて立つまで。

(確かな実力を備えてるって老将軍率いる一個大隊を相手に、さぁて、どう仕掛けようかなあ)

 キュッリッキは思考を切り替えて、考え始めた。

 キュッリッキの表情から察して、4人は顔を見合わせながら、にやりと笑んだ。

 長蛇の列に並ぶこと1時間あまり、ようやく自分たちの番が来て、5人は台座に乗った。

 エグザイル・システムとは、物質転送装置のことである。

 半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心には世界地図が彫り込まれていて、エグザイル・システムが置かれている各地を示す、突起のようなスイッチがある。行きたい場所のスイッチを踏めば、装置は起動して、目的地へ一瞬にして飛ばしてくれるのだ。

「サントリナ国の首都ルヤラへ、行きますよ」

 カーティスはルヤラのスイッチを、つま先で踏んだ。

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