片翼の召喚士 ep.18 知られた秘密(3)

chapter-1.ライオン傭兵団編
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片翼の召喚士 ep.18 知られた秘密(3)

「ありゃ、判っちゃった~?」

 ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。

(見られた!)

「バレバレだろーが、バカ者めが!!」

 ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。

 ザカリーは降参のポーズを取りながら2人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。

「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」

 興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーはグッと息を呑む。

 キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。

(見られたなんて、こんな…)

 自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。

 同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。

 他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。見せないと解放されそうもなかったから。それなのに、ヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。

 屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。

「すまん、ザカリーに気付かなかった」

 そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。

 ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。

「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」

 仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。

 ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。

「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」

「アタリマエダ!!」

 更にヴァルトはふんぞり返った。

「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」

 身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。

「あきらめろん!」

「へいへい」

 ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。

 歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。

(片方の翼が、いびつだったな…)

 話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを、見てしまったということだけは察しがついた。

 2人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。

 帰りはちゃんとお姫様抱っこで連れ帰ってもらったキュッリッキは、アジトの玄関前におろされると、一目散に自分の部屋へ駆け込んで、後ろ手にドアを閉めた。

「どうしよう…、ザカリーに見られちゃった」

 心の中は、不安でいっぱいになっていた。もしみんなにバラされたら、ライオン傭兵団だけではなく、ハワドウレ皇国にすら居られない。居たくない。それに、ルーファスやマリオンはサイ《超能力》を使う。透視されたらどうしよう。

「ヴァルトにも、見せるんじゃなかった」

 油断してしまった。ずっと隠しておくべき秘密だったのに。

 キュッリッキはベッドにうつ伏せで倒れこむ。可愛らしい柄のキルトで作られたベッドカバーが、目の端に映った。昨日、マリオンと一緒に買いに行ったのだ。

 アジトにきて1週間、少しずつ馴染み出してきた矢先だったのに、また居場所をなくすのだろうか。心がズキズキと痛んだ。

「ずっと、ここに居たい…」

 ベッドカバーをギュッと握り、目の端から涙がツウッと流れ落ちた。

 ザカリーは倉庫街からノロノロ帰り着くと、自室でタバコを3本ほど吸って、談話室に足を向けた。憂鬱はおさまらなかったが、酒でも飲みたい気分だった。

「あー、ザカリ~」

 マリオンが笑顔で手を振る。

「ついにキューリちゃんがあ、談話室デビューを果たしたわよぉ~」

「おっ」

 ひどく緊張した顔で、オレンジ色のソファの隅に腰掛けている。とてもデビューを果たした表情ではないが、こうして談話室に来る気になったのかと思うと、ザカリーはひっそりと安堵した。

 キュッリッキの横には、ルーファスとマリオンが並んで座って、キュッリッキを笑わせようと、傭兵団の赤裸々談を語り聞かせている。話題に挙がる面々が、時折誤魔化そうとツッコミまくっていた。

 ビールを手酌でコップに注ぎ、グイッと一気に呑む。今まさに、ギャリーの恥ずかしい思い出話が披露されていて、ザカリーも時々ツッコミ混ざる。そしてキュッリッキも、緊張した表情は中々崩れないが、我慢しきれず笑みを漏らしてもいる。

(よかった、もうあんまり怒ってないんだな)

 ザカリーは自分に都合よく解釈していたが、キュッリッキはそうではなかった。

 不安だから談話室へ来たのだ。ザカリーがみんなにバラしはしないか、もしバラそうとするなら、それを阻止するために。

 ヴァルトについては、あまり心配していない。彼の性格的に、バラすつもりならとうにバラしている。でも、ザカリーはどうだか判らない。まだそこまで、信用することはできないからだ。

(絶対、みんなに知られないようにしなくちゃなんだから)

 キュッリッキはスカートをギュッと握り、更に表情を固くした。

 この出来事が、後に大きな悲劇を招き寄せることになるとは、このときキュッリッキもザカリーも、気づいていなかった。