片翼の召喚士 ep.11 歓迎会(3)

chapter-1.ライオン傭兵団編
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片翼の召喚士 ep.11 歓迎会(3)

 乗合馬車はエルダー街の入口の停留所に停まった。運賃を御者に支払って、メルヴィンとキュッリッキは降りる。

「……うわ」

 陽も落ちて辺はすっかり暗くなっていたが、エルダー街は家屋から漏れる灯りで、街灯がいらないほどだ。それに、人々の話し声や怒鳴り声、音楽も鳴り響いて賑やかである。一昨日の昼間にきたときは、静かで閑散としていたのに、えらい違いだ。

「吃驚するでしょう。エルダー街は夜の方が賑やかです」

「吃驚したの…」

「さあ、行きましょう。みんなもう、飲み始めていそうです」

 停留所から歩いて10分ほどのところに、酒場《豪快屋》は建っていた。

 煤汚れたような古い木材で建てられている《豪快屋》からは、酒や料理の匂いと、賑やかな笑い声が溢れていた。

 道路に面した壁には、剥がれかかった汚いポスターが適当に貼られ、幾人かの酔っぱらいがもたれかかっている。まだ夜になったばかりなのに、すっかり出来上がっていた。

「こんばんはマスター、もうみんな集まってますか?」

 開けっ放しの店に入り、メルヴィンがカウンターに声をかける。

「おう! 奥に陣取って飲み始めてるぜ」

「判りました、ありがとう」

 キュッリッキもカウンターのほうへ顔を向けるが、そこには誰もいない。首をかしげていると、時々背中のようなモノが、チラチラ浮き沈みを繰り返している。きっとあれが、マスターなのだろうか。

「行きましょう」

「はい」

 店の中は淡いオレンジ色の光が優しく照らし、洒落た飾りなど一切なく、隅々には酒樽や酒瓶をいれた木箱が沢山積まれていた。建物と同じように年季の入ったテーブルや、ヒビの入ったオイルランプが、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 しかし、店内はすでに満席で、タバコの煙が舞い踊り、陽気な笑い声が乱舞していた。

「おーい、メルヴィン、こっちこっちー」

 ルーファスの声だ、とキュッリッキは気づいた。メルヴィンは奥の方へ手を挙げる。

「みなさんお待たせしました。キュッリッキさんを連れてきました」

 メルヴィンは身体をずらして、キュッリッキに前にくるよう目で合図する。

 気恥ずかしさにモジモジしていると、

「よう、ちっぱい娘」

「ちっぱい言うな!」

 ギャリーのからかう言葉に、即反応して前に飛び出た。

「そら、顔出した」

「はっ」

 ギャリーのニヤニヤする顔を見て、謀られたことに気づいて口をへの字に曲げた。

(またちっぱいってもお!)

 目の前でドッと笑いが起き、隣でメルヴィンも口を押さえて笑っている。キュッリッキは顔を真っ赤にして、悔しそうに頬を膨らませた。

「ハイハイみんな、そんなに笑ったら可哀想ですよ。今日はキュッリッキさんの歓迎会なんですから」

 その場に立ち上がって、カーティスが掌をパンパンっと打った。

「ギャリー、あんまり言うとぉ、セクハラよぉ~?」

 ギャリーの斜め前に座る女が、間延びしたアクセントでケラケラ笑う。

「巨乳っ子じゃねーから、ルーが残念がっててよっ」

「やだあ、オレにふらないでよー」

 さらに笑いが起きて、カーティスはしょうもないといった表情かおで肩をすくめた。

「キュッリッキさん、こっちへどうぞ」

 苦笑しながら、メルヴィンが席の方へとキュッリッキを促す。キュッリッキはプンッとしながらも、指定された席に座った。

 奥の誕生席に座らされたキュッリッキは、一斉に注目を浴びることになり、再び顔を赤くして俯いた。

「よう、追加注文の酒を持ってきたぞ」

 大きなトレイに、木のジョッキを沢山並べて、それを両手にそれぞれ持って大男がやってきた。

「ありがとうございます、マスター」

 キュッリッキの斜め左に座っていたメルヴィンが、立ち上がって片方のトレイを受け取る。

「よう嬢ちゃん、俺はこの《豪快屋》の店主でグルフ、って言うんだ。よろしくな」

 もみあげがやたらと毛深く、筋肉隆々のガタイ。上半身裸にフリルのピンク色のエプロンをした、何とも言えない迫力のグルフに、キュッリッキは興味津々の眼差しを注いだ。

 グルフ自らキュッリッキの前にジョッキを置き、それぞれ皆の前に並べていく。

「歓迎会って聞いちゃいたが、おめーらのところに新入りとか、珍しいな。こんなめんこい子だから、メイドか?」

「違います。ちゃんとした傭兵ですよ」

 カーティスが否定する。

(なんでみんな、メイドと間違えるのよ…)

 キュッリッキは憮然とした。

「傭兵!? こんなに細っこいのにか? 魔法とか使うんかい?」

 黒い目を丸くして、グルフはキュッリッキの顔を覗き込む。

「アタシは召喚士よ」

 首すくめてグルフの目を見つめ返しながら、キュッリッキはもそもそと言った。

「召喚士ぃ~~!?」

 グルフのドデカイ声に、店内が一瞬静まり返る。そして、ドヨッと店内が騒然とし、ライオン傭兵団の席に客たちが群がりだした。

「オイ召喚士ってほんとか!」

「召喚士ってあの召喚士か? 初めて見るぞ」

「ハーツイーズんとこのギルドにいるって噂を聞いたことあるぜ」

「召喚士ってなんだよ?」

 ワイワイとむさっ苦しい連中が人垣を作り、誰だ誰だとウヨウヨ叫ぶ。

 騒ぎをおさめようとメルヴィンが腰を浮かせたとき、ガタリと勢いのいい音が鳴り響き、一瞬店内が静寂に包まれた。

「さあオマエたち! 拝観料を払うがいい!!」

 空のジョッキを野次馬の群れに突き出し、もう片方の手を腰にあて、やたら長身の金髪男が仁王立ちで叫ぶ。

「ありがたい召喚士サマだぞ! 一人金貨一枚だ!!」

「高すぎるだろ!!」

 異口同音に野次馬たちが叫び返した。

「なんだ払えないのか! ならあっちへいくんだ、俺様たちはカンゲーカイの真っ最中なのだ!!」

 金髪の男のいちいち偉そうな言い方と態度に気圧されて、野次馬たちはぐっと引き、渋々と退散を始めた。その野次馬たちに舌を出し、鼻を鳴らして金髪の男は腕を組む。美形な顔立ちなのに、その尊大な態度の存在感が強かった。

「なんてケチな連中だ!」

「ごめんなー嬢ちゃん、騒いで見世物にしちまってよ」

 反省の色を浮かべた顔で謝るグルフに、キュッリッキは「大丈夫」と微笑んだ。

 グルフは面目ねーと苦笑い、後頭部をガシガシ掻いた。

「召喚士ってもんが、なにをするのか俺は判らんが、ライオンに入ったからにゃあ、俺の店も格が上がるってもんだな」

「そうですね。ライオン傭兵団御用達の店、などと、勝手に吹聴しているようですし」

 カーティスが肩をすくめて苦笑する。

「はははっ。まあ、事実じゃねえかよ」

 豪快に笑い、グルフはカーティスの背中を一発叩いた。

「ライオン傭兵団御用達プラス、召喚士様も御用達。こりゃあますます客が増えて、従業員増やさねえとならんな」

 明るい未来設計が脳裏に浮かび、グルフはニヤニヤと無精ひげの顎を摩った。

「高額の宣伝出演料もらっとかないとね、キュッリッキちゃん」

 ルーファスがにっこり言うと、キュッリッキも頷いた。

「ギルドの口座番号教えるよ?」

「勘弁してくれや~~」

 ドッと笑いが起こり、いつの間にかキュッリッキも、声を立てて笑っていた。

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