【小説】片翼の召喚士-episode100

chapter-4.記憶の残滓編
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記憶の残滓編-episode100 【片翼の召喚士】

 そろそろ8時になろうかという頃、ノックがして、ゾロゾロと女性たちが入ってきた。

「お目覚めでございますか? おはようございます、お嬢様」

「おはようございます」

 初老に差し掛かった風貌の女性と、まだ20代くらいの女性たちが数名、キュッリッキに向かって朝の挨拶をした。

「お、おはよう…」

 きょとんっとした表情で、キュッリッキはぎこちなく挨拶を返す。

(お嬢様って……アタシのこと?)

「ご気分は如何でしょうか。どこか、お苦しいところなど、ございませんか?」

 慇懃に訊ねられて、キュッリッキは小さく首を振る。

「ドコも苦しくないよ」

「それは、ようございました」

 老婦人はニッコリと微笑んだ。

「わたくしは、この屋敷でハウスキーパーをつとめております、リトヴァと申します。今日からお嬢様の、お身の回りのお世話をさせていただきます」

 そういって、丁寧に頭を下げた。

「後ろにおりますメイドたちも、共にお世話をさせていただく者たちです。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいね」

 メイドたちも、ひとり一人名乗りながら頭を下げた。

 しかしキュッリッキは、文字通り、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。その表情を見て、リトヴァが首をかしげる。

「どうかなさいましたか? お嬢様」

「え…、えっと…」

 表情とは裏腹に、キュッリッキの頭の中は忙しく回転していた。

(やっぱりアタシがお嬢様って呼ばれてる、なんでだろう? ココってドコなのかな…。ベルトルドさん隣に寝てたから、もしかしてココって…)

「あ、あの」

「はい」

「あの、ココって、ベルトルドさん…ち?」

 おっかなびっくり問うと、リトヴァは明るく笑んだ。

「さようでございます」

 身体が元気であれば、飛び上がって驚くところだ。

 キュッリッキの驚いた様子に、リトヴァは小さく頷く。

「昨日、お屋敷にいらしたときから、お目覚めになっていなかったのですね。――ここはベルトルド様のお屋敷でございます。そして、このお部屋は、お嬢様のためにご用意されたものでございますよ。お気に召すと良いのですけれど」

「うん、とっても素敵なお部屋だね」

「旦那様もアルカネット様も、お喜びになりますわ。ここは、南棟の2階にあるお部屋でございます。お屋敷の中でも陽当りも風通しもいい、お身体を癒すには最高でございます。旦那様とアルカネット様が、慎重に検討なされてご用意しておりましたから」

 語尾がやや小さくなり、リトヴァと背後のメイドたちの表情が、何とも言えないモノになっていて、キュッリッキは首をかしげた。

 家具やベッドの配置、インテリアに至るまで、あの2人が喧しいほど注文をつけて、寸分の狂いもなく使用人たちにやらせたということは、キュッリッキは生涯知ることはない。

 ハァ、と小さくため息をつくと、リトヴァは「失礼いたします」と言って、キュッリッキの額に触れた。

「お熱の方もすっかり下がっているご様子、お医者様がお見えになる前に、お支度をしてしまいましょうね」

「支度?」

「はい。お身体を拭いて、お着替えを済ませてしまいましょう」