【小説】片翼の召喚士-episode099

chapter-4.記憶の残滓編
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記憶の残滓編-episode099 【片翼の召喚士】

「あんなに優しくしてくれたベルトルドさんでも、きっと、怒っちゃったよね」

 誰でもあんな言葉を叩きつけられ、態度をとられれば、怒って当然。自分だって怒る。

「ハーツイーズのおばちゃんたち以外で、アタシに優しくしてくれた大人だったのに…。アタシってばホント、我慢強さや協調性がナイよね」

 フェンリルに向かって呟くと、フェンリルは小さく首をかしげるだけだった。

「辛い過去を持ってるのは、アタシだけじゃない。誰だって何かを抱えて耐えているのに。――判ってるのに、上手に自分を抑えられない。つい、自分だけが特別みたいに思っちゃうんだ。だから暴発しちゃうのねきっと…」

 世の中には、親から愛情を注がれない不幸な子供がいっぱいいる。捨てられた子供だって、赤ちゃんだっているのだ。だから、自分だけが辛いと思ってはいけないと、幼い頃から言い聞かせている。自分自身に。

 あの修道院にいた孤児たちも、背景はどうあれ親がいないし、親の愛情に恵まれていない。自分だけじゃないのだ。

 そう思っていても、親のことに触れられたり、過去を思い出してしまうと、感情のコントロールが効かなくなる。

「追い出される前に、もう一度ベルトルドさんに会えるかなあ…。会ったら、ごめんなさいって謝るの」

 強さを増していく朝日とは反対に、キュッリッキの心をどんよりとした重いものが覆っていった。

 キュッリッキが夜中のことで後悔に頭をぐるぐるさせている3時間ほど前、アルカネットにしょっ引かれたベルトルドは、総帥本部の執務室の中にいた。

 ベルトルドは猛烈に不機嫌を表情に貼り付けたまま、デスクの前でふんぞり返る。

「確かに俺は仕事をサボった。たった、1日だけ、サボった」

 否1日半か、と訂正しながら腕を組み、仁王立ちして目の前のデスクの上を見下ろす。

「だからといって、この書類の量はなんだ? たった1日半だけしかサボってないぞ!? 俺は勤勉家なんだ。毎日真面目に働いて働いて働いているのに、たった1日半サボっただけで、これはないだろう?」

 これ、と白い手袋に包まれた指で、デスクの上を全て覆い尽くすほどの書類の山を差した。必要以上に”たった”を強調する。

「アナタ気づいてないでしょうが、毎日さばいている仕事が、この量なんです」

 真横に立ち、アルカネットがしれっと答える。

「これは全部、軍関係ですね。国政関連は宰相府でしょうか」

「……そっちはリューに押し付けてある」

「アナタのハンコを、リュリュが押してるのですか……」

「ウン。俺でなければ無理な決済だけは保留させてある」

「それでこの国が成り立っているのかと、不思議でなりませんね」

「今回だけだ、今回だけ。それに、お前はあまり知らないだろうが、リューは俺より政務に向いてるぞ。俺の秘書官なんてやってるが、大臣でもやらせたほうが、よほどこの国のためになるくらいにな」

「ふむ。まあ、リュリュはターヴェッティで3位卒業でしたしね」

「俺が首席、お前が次席、リューが3位、上位を3人でとってやったもんな」

 ふふんっとベルトルドが得意そうに笑むと、アルカネットは肩をすくめた。