【小説】片翼の召喚士-episode096

chapter-4.記憶の残滓編
この記事は約3分で読めます。

記憶の残滓編-episode096 【片翼の召喚士】

 幼い頃、密かに淡い初恋のようなものをいだいたことがある。それは実ることなく終わったが、ベルトルドは41歳になって改めて恋をした。

 今度はきっちりと、恋をしたと自覚できる。

 これまで星の数ほど色んな女たちを相手にしてきたが、本気になったことも、本気になりかかったこともない。適当に遊んで捨てていった。

 ベルトルドにとって女とは、性欲のはけ口にしかすぎず、恋をしたいと思ったこともない。それなのに、キュッリッキには本気で恋をしてしまったのだ。

 23歳も年下の少女を、どう扱えばいいのかベルトルドには自信がなかった。子供を持った経験もないし、セフレにここまで若い娘はいなかった。

 今は身体も傷つき、ずっと心に深い傷を負っている。

 自分の愛で、癒すことができるだろうか?

「いや、癒してみせるさ」

 腹の奥底から、ジワジワと熱いものがこみ上げてくる。

「この俺の海よりも深い愛で、リッキーの心の傷も全て癒す! そして俺の愛でいっぱいにし、俺以外の男に見向きもしないほどガッチリ心をつかみ、毎晩俺だけを求めて甘えるように教育する!」

 握り拳をガッシリ握り締め、ベルトルドは明後日の方向へ強く頷く。

「胸がペッタンコだろうと愛の前にはなんの障害でもない! 揉んで揉んで膨らむくらいに揉んで揉み尽くせば、ちっぱいなど気にもならん」

 眠るキュッリッキの胸元に視線を貼り付け、ベルトルドは勝手に納得する。キュッリッキにとって『ちっぱい』が禁句だということは知らない。

「それにしても、本当に可愛らしい。全てが愛おしい」

 艶やかな金の髪も、白桃のように白い肌も、小柄で華奢な身体も。そして、あれだけ深い心の傷を抱えながら、それでも愛らしい笑顔を浮かべることができる純粋さ。

 性欲を満たして満足したあと、捨てた女たちのように、今度は捨てる気はない。傷ついたこの小鳥を、嫌がっても抵抗してきても、籠に閉じ込め手元に置いておく。

「俺の愛に抱かれれば、もう二度と辛い思いをすることもない。悪い夢だったと思わせてみせるぞ、リッキー」

 キュッリッキの寝顔は悲しみに満ちているように見えた。流れ込んできた幼い頃のキュッリッキの姿が重なり、抱きしめてやりたかった。そして静かな寝息をたてるその柔らかな唇を見つめていると、吸いつきたい衝動に襲われ、顔を近づけては背け、再び向けては背けを繰り返す。

(アルカネットに先を越された、アルカネットに先を越されたっ!!)

 そのことが、一番悔しい。

(あんにゃろおおおおお)

「何をしてるのです」

「いででででっ」

 いきなり耳を思いっきり引っ張り上げられ、ベルトルドは強烈な痛みに軽い悲鳴を上げる。

「アルカネットかっ! 痛いからヤメロ」

 自分の屋敷でこんな無礼を平気で働くのは、アルカネットしかいない。しかしさらに耳は引っ張られ、大の男の身体が易易と持ち上げられた。

 アルカネットは無表情のままベルトルドの耳を掴んでいたが、やがてパッとはなす。その拍子に、ベルトルドは顔面からベッドに倒れ込んだ。

「ふがっ」

「全く、目を離しているとすぐコレですから、困ったものです」

「……」

 ベルトルドはのろのろと身体を起こし、ベッドの上にぺたりと座った。そして傍らで腕を組んで見下ろしてくるアルカネットを見る。

「早かったじゃないか」

「嫌な予感しかしませんでしたから、文字通り飛んで帰ってきました」