【小説】片翼の召喚士-episode089

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode089 【片翼の召喚士】

 皇都イララクスのクーシネン街にあるエグザイル・システムに到着すると、エグザイル・システムの建物の中は、全て正規部隊の軍人だらけになっていた。

「お帰りなさいませ、閣下」

「ブルーベル将軍か、出迎えご苦労」

 2mを超える巨躯で、白クマのトゥーリ族であるブルーベル将軍は、つぶらな瞳を細めてベルトルドに敬礼する。

「お嬢様のお加減が悪いようですが、転送の負荷の影響はなかったようですね」

「ああ。俺がついているからな」

「それはようございました」

 キュッリッキを見つめ、ブルーベル将軍はホッとしたように肩の力を抜いた。転送の負荷があれば、今頃キュッリッキは血まみれで事切れているだろう。ベルトルドのサイ《超能力》によって守られていた証拠だ。

「このあと、ぞろぞろ同行者どもが飛んでくるが、医者2名はすぐに通してくれ。連れて行くから。一緒に飛べばよかったと、今言っていて思ったが…」

「承りました」

 ベルトルドは出口に向かい、その後ろにルーファスとメルヴィンが続く。

 建物の外では、馬車の傍らでリュリュが待っていた。

「お帰り、ベル」

「お前まで迎えに来てくれたのか」

「違うわよ。小娘の様子が心配で、ちょっと見に来ただけ。すぐ戻るわ」

「そっか」

 リュリュはベルトルドの腕の中を覗き込む、

「辛そうね。早くベッドに寝かせてあげないと」

「ああ」

「あとで色々教えてちょうだいね。さ、行って」

「んっ」

 あまり引き止めはせず、リュリュはベルトルドたちを馬車に促した。医師2人もすぐに合流する。

「ベルと医師2人はそっちの馬車、メルヴィンとルーはこっちの馬車に乗んなさい」

 上等な馬車が2台並んでおり、先頭の馬車にベルトルドたちが乗り込む。それを確認して、リュリュは御者を促した。

 ベルトルドたちの乗る馬車が走り出し、若干遅れてメルヴィンとルーファスを乗せた馬車も続いた。

 2台の馬車が走り去って行くのを見送って、リュリュは乗ってきた馬車へと乗り込んだ。

「出してちょうだい」

 御者に声をかけると、馬車はすぐに走り出す。

「あんなに細っそりとした身体で、さぞ痛かったでしょうね…。まあ、どんな体型でも性別でも年齢でも、痛いことには変わらないだろうけど」

 たまにうっかりと紙で指を切ってしまうことがある。たいして深くもない傷だが、滲みるほど痛いのだ。たったそれだけの傷でも、大怪我したような気分になる。それを思うと、キュッリッキの負った怪我の大きさと痛みは計り知れない。

「ヴィヒトリが付いてるから怪我は完璧に治るだろうけど、心の傷までは、すぐには治らない。立ち直ってくれるといいんだけれど」

 リュリュはある人物を思い浮かべていた。そして切なさを匂わせた笑みが、フッと口の端を過る。

「早く良くなってね、小娘」

 白い雲が泳ぐ水色の空を見つめ、リュリュは祈るように呟いた。