【小説】片翼の召喚士-episode088

chapter-3.混迷の遺跡編
この記事は約3分で読めます。

混迷の遺跡編-episode088 【片翼の召喚士】

 いつもの不敵な表情のベルトルドの後ろから、今にも倒れてしまいそうな面々を見て、出迎えたラーシュ=オロフ長官は頭上にクエスチョンマークを点滅させた。

「お疲れ様です、閣下」

「うむ、出迎えご苦労、ラーシュ=オロフ長官」

 アルイールの港には、第二正規部隊の軍人たちが、濃紺の列を作って到着を出迎えてくれていた。

 ラーシュ=オロフ長官は、ベルトルドの腕の中でぐったり眠るキュッリッキに目を向け、表情を曇らせる。

「だいぶ、お加減が悪ようですね」

「怪我のせいで熱を出していてな。無理に連れ帰るからだが…、あともう少しの辛抱だ」

 眠っているとはいえ、相当辛いに違いない。

 ベルトルドはキュッリッキの額に口づけ、そして歩き出した。ラーシュ=オロフ長官も続く。

「アルイールの制圧は終わったな?」

「はい。ですが、王族と軍を逃しました。申し訳ございません」

「ほう、守るべき民を見捨てて、雲隠れしたのか。呆れた王と軍だな」

 嘲笑うように「フンッ」と鼻を鳴らす。ラーシュ=オロフ長官は苦笑した。ベルトルドがこういう輩を毛嫌いしていることを、ラーシュ=オロフ長官はよく知っている。ダエヴァはベルトルドの私兵と揶揄されるほど、親密な関係にあるからだ。

 数日前にアルカネットから洗礼を受けた首都アルイールは、都市機能が低下し、火事や爆発が起こって家屋が崩壊、被災地のような光景が至るところに散っていた。挙句ハワドウレ皇国の軍隊に蹂躙され、アルイールを捨てたソレルの軍は何処かへ消え去り、残された国民は不安に包まれていた。華麗な王宮も占拠されたが、王族はすでに逃亡した後らしい。

「残された一般人全てが無害とは言えないが、抵抗してくる者は留置所送り、無抵抗者には手出し無用だ。ただ、武装蜂起や暴動が起きないよう、注意するようにしろ」

「はっ」

「アルカネットのやつが派手にやらかしたようだから、追い打ちをかける必要はない。今はまだ、このままでいい」

「はい」

「さて、エグザイル・システムに着くまでに、やっておかなければならないことがある。アークラ大将と共に、後のことは任せる」

「承りました!」

 ラーシュ=オロフ長官は立ち止まり、ベルトルドに敬礼をして踵を返した。

 エグザイル・システムまでの道程には、びっしりと第二正規部隊がガードレールのように列を作っていた。

 その真ん中をゆっくりと歩きながら、ベルトルドはキュッリッキをじっと見つめ意識を凝らす。

 細い毛糸ほどの太さの光の線が、キュッリッキの身体を包み込み始める。繭を編むような感じで、慎重なスピードで編まれていった。

 それは常人の目に見えるものではなかったが、サイ《超能力》を使うルーファスの目には、はっきりと映っていた。

(すげえ……あんな繊細な作業、オレには無理)

 キュッリッキは固定され、繭に守られ外部からの如何なる力の影響も受けない。サイ《超能力》による力は、使用者の精神力の大きさに影響される。

 キュッリッキを傷つけない、絶対に守り抜く。そう強い意志が光の繭に反映される。ベルトルドの強固な意志が、キュッリッキを守るのだ。

 エグザイル・システムの建物に到着する頃には、防御の繭を張り終えていた。

「さすがですね、ベルトルド様」

 ベルトルドの横に並びながら、ルーファスが賛辞を述べる。精度といい早さといい完璧な力の使い方だ。

 ベルトルドはちらりとルーファスを見ると、フンッと鼻を鳴らした。

「お前にも出来るはずだ。真面目に修行でもしておけ」

「マジっすか…」