【小説】片翼の召喚士-episode085

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode085 【片翼の召喚士】

 各々夫妻への挨拶が済むと、最後にヴィヒトリが病院から出てきた。包帯でぐるぐる巻かれて、動けないザカリーの診察をしてきたようだった。

 頑丈な板が用意されそこに布団がのべられると、ベルトルドはその上にそっとキュッリッキを寝かせた。即席の担架だ。

 そのまま抱いていってもよかったが、抱き上げられる姿勢は、キュッリッキの身体に余計な負担を強いるため、ベルトルドの指示で担架が用意された。

「東にある漁港に艦を待機させてある。それでアルイールまで出て、エグザイル・システムで飛ぶぞ」

「判りました、んですが…」

「なんだ?」

「アルイールの警戒態勢は大丈夫でしょうか? アルカネットさんが到着した際、ソレル王国兵が、エグザイル・システムの周囲を固めていたとか」

 不安そうにカーティスが首をかしげる。

「ふん、それは問題ない。昨日の時点で正規部隊でアルイールは抑えてある」

「え、まさか、皇王様が動いたんですか??」

 カーティスは驚いて息を呑む。いつの間にそんな事態になっているのだろうか。

「ん? 言ってなかったか? 俺が全軍総帥の権限を与えられているから、俺の指示だ。あんな昼行灯の能無しボケジジイは関係ナイ」

 たっぷりと間があいたあと。

「ナンデスッテーーー!!?」と、その場に複数名の絶叫が轟いた。

 深々とベルトルドがため息を吐き出す。

「キャラウェイの禿頭ダルマが逮捕されて、逮捕に貢献したご褒美と称して総帥の地位まで押し付けられた。あの能無しボケジジイ、どんだけ俺の仕事を増やす気でいるんだ全く忌々しい!」

 どのみち副宰相の肩書きに毛が生えただけだと、ベルトルドはめんどくさそうに鼻を鳴らした。

 ハワドウレ皇国では、軍部の長になる総帥の地位は皇王が兼任している。その下に直接正規軍全体を統括・指揮するために将軍があり、正規軍(正規部隊)には兵士から士官までの階級が存在し、各特殊部隊や組織には長官を置いていた。実際には将軍が動かすが、何かを始める時にはその許可を得るために、総帥である皇王のサインが必要になる。

 過去皇王から下々に権限が委ねられることはあったので、けして稀なケースではなかったが、副宰相に委ねられるのは初めてのことらしい。

「副宰相は宰相より忙しいっていうのに、全くあのジジイども…」

 国政の長である宰相は高齢で、宰相という地位に座っているだけ。実務自体は副宰相のベルトルドがおこなっていた。

「国政と軍の両方の権限を握ったのかよ」

「鬼に金属バット以上だな…」

「どえらいひとがボスになってるよねえ~アタシたちぃ」

「護衛もなしにこんな辺境まで、よくもまあ堂々と」

 ライオン傭兵団の面々はヒソヒソと囁きあった。

「そういうわけだ。いくぞ!」

 ベルトルドが担架に手をかざすと、担架はゆっくりと浮き上がった。

 見送る側になったマリオンに、ギャリーは手を振る。

「ザカリーのこと頼んだぜ」

「あいよ~!」

 アルカネットやマリオンたちに見送られ、一行は出立した。