【小説】片翼の召喚士-episode082

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode082 【片翼の召喚士】

 ああそういえば、といった無言のツッコミが、室内にモヤモヤと沸いた。

 その沈黙を破るように、アルカネットがいきなり「ブフッ」と吹き出す。

「なんで、なんて聞いたら、あのかたひっくり返ってしまいますよ。意気揚々と軍艦飛ばして準備万端で来るのに」

 肩を震わせ面白そうにアルカネットは笑った。その珍しすぎる笑いっぷりに、皆目を白黒とさせた。キュッリッキもビックリしたように、目をパチクリさせている。

 ひとしきり笑ったあと、アルカネットは咳払いをして居住まいを正した。

「リッキーさんを安全にエグザイル・システムに通すため、ベルトルド様のサイ〈超能力〉が必要なのです」

「ふうん? サイ〈超能力〉ならルーさんも使えるよ?」

「そうですね。ルーファスも中々のレベルですが、今回ばかりはベルトルド様の桁違いの力が必要なのです」

「ほむ…」

 ベルトルドのことをあまり知らないキュッリッキには、どのくらい桁違いなのか想像もつかない。

「リッキーさんの傷では、エグザイル・システムの転送に身体がついていけません。その為サイ〈超能力〉で作った防御を張らないと、飛ばすことが出来ないのです」

「ああ…、確かにオレじゃあ、不安がありまくるなあ…」

 ルーファスは納得したように、カシカシと頭を掻いた。Sランクを持つが、得意不得意があり、ルーファスはキュッリッキに必要な力を使う自信がなかった。

 エグザイル・システムは転送の際に、身体に負担がかかることは立証されている。かすり傷程度は問題なかったが、キュッリッキのような怪我人を転送させると、傷口が開いてしまうため、強引に通す場合はサイ〈超能力〉による防御が必要不可欠だった。

 魔法で防御を張る実験も試されたが、飛ぶ瞬間解けてしまうらしく、サイ〈超能力〉なら問題ナシという実験結果も出ている。

 キュッリッキは術後間もない状態なので、より細心の注意が必要だ。

「ヘンなおっさんですが、ああ見えて凄いんですよ」

 当たり前のような口調でアルカネットが言うと、”ヘンなおっさん”には皆堪えきれず、盛大に吹き出してしまい、病室に暫し明るい笑い声が広がった。

 ベルトルドの到着に合わせてすぐ移動できるように、皆帰還の準備に取り掛かったが、キュッリッキの容態が急変して大騒ぎになった。高熱を出して苦しみだしたのだ。

 宿で待機していた医師たちも呼ばれたが、怪我による高熱らしいことが判り、それはそれで問題となった。

「いくら副宰相様がいらしても、この状態で動かすのは、身体への負担が大きすぎます」

 ドグラスは神妙な顔で、額の汗を拭う。それに同意して、ヴィヒトリは腕を組んで唸った。

「せめて熱が下がるまでは、動かしたくないよね。ただ、この地の気候は怪我人には厳しい。湿度が高すぎて、体調を悪くするだけだしなあ…」

 医師2人は頭を抱えてしまった。

 気候のこともあるが、設備の整っているイララクスに連れて帰りたいのが、医師2人とアルカネットの本心だった。

「アルカネットさん…」

「大丈夫ですか、ここにいますよ」

 ベッドの傍らに膝をつき、そっと頬を撫でてやる。

「帰りたいの…」

 熱に浮かされて、キュッリッキは囁くように言った。その時。

「誰か出迎えはいないのか! 俺が来たぞ!!」