【小説】片翼の召喚士-episode078

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode078 【片翼の召喚士】

 10時間以上にも及ぶ大手術になった。空はすでに夕闇に染まり、することもなく待ち続けていた一同は、マルヤーナから手術成功の報を受けて、張り詰めていた緊張を解いて安堵した。

「よかったあ~~」

「キューリちゃん助かったあ」

 大騒ぎして喜び合うよりも、力が抜けるように安心していた。

 手術に立ち会い、手伝いをしてくれていたマルヤーナの顔には、疲労の色が濃かったが、それ以上にキュッリッキが助かったことを喜ぶ表情に満ちていた。

 術後の経過はウリヤスが見ることになり、アルカネットに連れてこられた医師2人は、近くの宿で休むよう指示を受けて、すでに向かっている。

 あまり大勢で押しかけるのもなんだしということで、カーティスとメルヴィンの2人が代表で病室を訪れた。

 薬の臭いが満ちる薄暗い部屋の中には、ベッドに横たわるキュッリッキと、その傍らに座るアルカネットがいた。

「お疲れ様です。キューリさんはまだ目を覚ましませんか?」

「じき覚ますでしょう。本当に、よく頑張りましたよ」

 アルカネットは手術中魔法をかけ続けていたのもあり、僅かに疲労感を滲ませていた。

 小さな左手を両手で包み込むように握り、アルカネットはキュッリッキの顔を見つめている。

「こんなに細い身体で…さぞ、怖かったことでしょう」

 返す言葉もなく2人は黙り込む。事の次第は、ベルトルドから聞いているようだ。

「予期せぬ事故とはいえ、あなた方の責任ですよ」

「申し訳ありません」

 アルカネットの手の中で、か細い指が微かに動く。

 やがて小さく呻いたあと、キュッリッキはうっすらと目を開いた。

「リッキーさん」

 アルカネットが顔を覗き込む。カーティスとメルヴィンも、それぞれ身を乗り出した。

「……アルカネットさん?」

「はい。よく頑張りましたね」

 優しく微笑むと、そっとキュッリッキの額にキスをした。

「アタシどうしたんだろう…」

 掠れ声で呟くと、まだ記憶が定かではないようで、目だけをゆっくり巡らせていた。

「カーティス、メルヴィン」

 足元の方に立つ2人を見つけ、キュッリッキの表情が安堵したように和らいだ。

「酷い怪我でしたが、もう大丈夫です。ただ、当分は絶対安静にしなくてはいけませんけどね」

「怪我……」

 ぼんやりと繰り返す。

 次第に記憶の蓋が開けられ、ぼやけていたものがフラッシュバックして全てが鮮明になった。その瞬間キュッリッキの顔が強張り、大きく見張った目からは涙が流れ出し、か細い悲鳴を喉から迸らせた。

「――助けていやあっ!」

「リッキーさん!!」

 左半身で身体を仰け反らせて暴れだしそうになるキュッリッキを、アルカネットが慌てて抑え込んだ。その拍子に傷口に触ってしまい、身体を貫いた痛みのあまり、顔を苦悶に歪めてキュッリッキは唇を噛んだ。

「すみませんっ、落ち着いてください、もう大丈夫です、大丈夫ですから」

 いつになくアルカネットは慌て、カーティスとメルヴィンもどうしていいか判らず、傍らで困惑の表情を浮かべるだけだった。