【小説】片翼の召喚士-episode076

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode076 【片翼の召喚士】

 アルカネットと医師2人がソレル王国のエグザイル・システムに到着すると、いきなり銃口が多数突きつけられた。エグザイル・システムの周りは、2個小隊ほどのソレル王国兵たちに取り囲まれている。

 エグザイル・システムは、飛ぶときは台座の上に乗っていくが、飛んだ先では台座の下に到着する。その為台座の下には、多勢が飛んできてもいいように、開けた場所が必ず設置されていた。

 ひな壇になっている中段に、台座が置かれている。そこから辺りを睥睨し、口ぶりだけはいつもと変わらず、アルカネットは穏やかに言った。

「なんの真似でしょうか?」

 しかしそれに応える者は誰もおらず、ピリピリとした緊張だけがこの場を支配している。誰何する声もなく、銃口と剣先が向けられ、明らかに敵意ある魔力の高まりも感じられた。

 ハワドウレ皇国のエグザイル・システムのある建物ほどではないが、ソレル王国首都アルイールのエグザイル・システムの建物も立派である。遺跡観光を看板に掲げる国らしく、遺跡をモチーフとした美術的デザインが美しい。それを物珍しげに眺め渡し、ヴィヒトリは小さく欠伸をした。

「連続オペで、ボク疲れてるんだよね。さっさと行きましょうよ、アルカネットさん」

「ええ、そうですね」

 淡々と言いながらも、僅かにアルカネットの声音には苛立ちが含まれていた。それを敏感に感じ取って、背後に控えていたドグラスは、恐々と身を強ばらせた。

 アルカネットは一歩前に踏み出すと、いきなり両手をバッと広げた。

「イスベル・ヴリズン」

 一言魔法名を言い放つ。すると、アルカネットの両手掌から、氷柱のようなものが無数に飛び出し、エグザイル・システムを取り囲むソレル王国兵たちに突き刺さっていった。

「うひゃ…」

 ヴィヒトリは首をすくめて小さく悲鳴をあげる。辺は一瞬で騒然とし、氷柱攻撃を免れた兵士たちが発砲した。しかし、

「トイコス・トゥルバ!」

 エグザイル・システムのひな壇の周りに、突如土の壁が床からせり上がり、銃弾を全て防いでしまった。

(凄いなあ…、これが噂に聞く、アルカネットさんしかできないっていう無詠唱魔法ってやつか)

 魔法スキル〈才能〉を持つ者は、体内に魔力を内包している。使う魔法の属性魔力を引き出し、魔法の形に作り上げるために呪文が必要になる。そして作り上げたその魔法を放つ時に魔法名を言う。

 人によって魔法を作り上げるスピードは異なるが、アルカネットの場合、魔法を作り上げるための呪文が必要ない。一瞬で必要な魔法の属性魔力を引き出して、完成させてしまうのだ。俗に言う無詠唱魔法である。

 アルカネットもまた、ベルトルドと同じように、Overランクを持つ魔法使いだ。神を引っ張り出さないと、倒すことができないとまで言われている。

 ソレル王国内は、現在超厳戒態勢が敷かれている。軍施設がライオン傭兵団の襲撃を受けて、ケレヴィルの研究者たちが攫われてしまったからだ。その為、とくにエグザイル・システムは国外脱出手段の一つになるため、犯人たちやその仲間が出入りしないよう、兵士たちが厳重に配備されていた。

 誰が飛んでくるか判らないため、エグザイル・システムから誰かが飛んでくるたびに、兵士たちは銃口を向けて脅していた。それが、両手を上げるわけでもなく、いきなり魔法で攻撃してくるので慌ててしまっていた。

 アルカネットは素早く、3人の周りに防御魔法を張り巡らせる。そしてパチリと指を鳴らすと、3人の身体がひな壇から浮き上がった。

 アルカネットを先頭に、ゆっくりとひな壇の階段を滑り降りると、出口に向けて加速した。

 不意をつかれたソレル王国兵たちは一瞬出遅れたが、すぐさま発砲し、魔法攻撃が3人目掛けて迫る。しかし攻撃は掠りもせず、建物を抜けた3人の身体は、そのまま外に躍り出た。