【小説】片翼の召喚士-episode075

chapter-3.混迷の遺跡編
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混迷の遺跡編-episode075 【片翼の召喚士】

 ザカリーは眠ることができず処置室の前まで来ると、遠慮がちに中を覗いた。キュッリッキの容態が気になってしょうがないのだ。

「キューリは大丈夫だよ」

 いきなりランドンに話しかけられ、ザカリーはちょっと驚いてサッと壁に隠れる。

「こっちにきて座りなよ」

 笑い含みに促され、少しためらったあと、中に入って隣の椅子に座った。

 やっとキュッリッキの姿を見ることができて、ザカリーはグッと息を詰める。

 輸血を受けているが、血の気を失った蒼白な面は変わっていない。それでも神殿の中で見たときよりは、多少落ち着いているようにも見えた。

 血で汚れた衣服は脱がされ、痛々しすぎる傷をあわらにし、裸の上に軽くシーツがかけられ眠っている。髪の毛は邪魔にならないよう束ねられ、血で汚れていた毛は丁寧に清められていた。おそらくマルヤーナがしてくれたのだろう。

 回復魔法で痛みが和らいでいるせいなのか、キュッリッキの表情は落ち着いていた。

「酷い傷、だな…」

「肩から胸の傷も酷いけど、背中も凄く大きな痣になってた。あの怪物に殴られたのかもしれない」

 肩にも打撲痕があり、擦り傷もいくつか見られた。

「でもね、ウリヤスさんがきちんと診てくれたけど、内臓類に損傷はないって。それだけは幸いだった。もし内臓類に損傷があったら、もう助からなかったから」

「そうか……」

 ホッとした反面、それでもあんな僅かな時間でこれだけの大怪我を負ったのだ。どれほど怖かっただろうか。痛かっただろうに。それを思うとやりきれなかった。

「ごめんな…」

 独りごちるように、キュッリッキに向けてザカリーは呟いた。

「俺が怒らせなきゃ、神殿に入ることもなかったんだよな」

 あんなふうにからかうんじゃなかった。ほんの些細なことで、こんな事態に発展してしまったのだ。

 そう思えば思うほど、短慮だったと自分を責めた。己を責めることしか出来ないことが余計に悔しい。自らを責めたところで、それは自己満足にしか過ぎない。キュッリッキはいまだ生死の境を彷徨っているのだから。

「キューリは死なない」

 ボソッとした声でランドンは断言する。

「僕が看てるし、こんな大怪我を負ってもこの子は死ななかった。だから大丈夫」

「……」

 いつもは口数の少ないランドンが、慰めるように言った。

 ランドンは常に影に徹して、けしてでしゃばらず仲間を支えてくれる。いざという時どれほど頼りになる男だろうとよく思う。

 回復魔法を使い続けるだけでも大変な苦労なのに、ザカリーのことまで気遣ってくれる。その気持ちが嬉しく、救われる思いだった。

「ありがとな」

 ザカリーは俯いて肩を震わせた。