【小説】片翼の召喚士-episode051

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode051 【片翼の召喚士】

 まだ照りつける太陽の下、辺りには遮るものもなく、見晴らしの良い麓の広場に、ソレル王国軍は山裾に伸びながら固まっていた。

 そこを目指し、ガエルとメルヴィンは駆けていく。小石を多量に含んだ地面は足を取られやすかったが、2人は一定の速度を保ったまま、安定して走っていた。

 200人弱に対して、こちらはたった2人。しかし、ガエルもメルヴィンも迷うことなく敵の只中に突っ込んだ。

 突如現れた2人組に、ソレル王国軍は何事かと慌てている。一気に騒然となり指揮系統が乱れ、ほぼ個人の意思で対応する形になっていた。

 ガエルとメルヴィンは二手に分かれ、咄嗟に動けずにいるソレル王国兵を容赦なく攻撃する。

(フッ、これは良いものだな)

 敵からの攻撃が、全て無効化されていく。敵の攻撃が届く前に見えないものが防御し、しかし自分で繰り出す攻撃は阻害されない。

 本来食らう筈のダメージがないので、煩わしいことを気にせず戦える。これほど爽快な戦闘は初めてのことで、いつもよりガエルの気分は高揚していた。

 キュッリッキが召喚したガラス板のようなものが、防御してくれているおかげだ。

 今回のように200人弱の、中隊規模の兵士たちを一斉に相手にする場合、無傷でいることは絶対にありえない。まして、攻撃自体も阻まれ前進も難しいだろう。仲間全員でサポートしあっても、こんな風にはいかない。

 怪我の痛みに耐え、疲労にも屈せず得る勝利こそ最高! などど、マゾいことを考える性格でもない。いかに邪魔されず阻まれず、己の全力を叩き込めるかだけだ。

 日々精進と鍛錬を欠かさず、己のパワーはどこまで伸びるのか、それが試したくてフリーの傭兵になった。今まさに、それを試せるのだ。

 200人弱の中隊兵たちを、たった2人で相手にする。そのシチュエーションも、より興奮に繋がっていた。

 ガエルのスキル〈才能〉は、とくにトゥーリ族ではもっとも多く生まれて持ってくる中の一つ『戦闘』だ。

 この『戦闘』スキル〈才能〉は大雑把に、肉体を武器にする格闘系と、武器を扱う系統に分けられ、さらに細分化していく。

 大抵一人ひとつだけの得意な体術や武器使いなどになるが、稀にその系統の複合スキル〈才能〉を持って生まれてくる者もいる。レアスキル〈才能〉の次に貴重なスキル〈才能〉だった。

 ガエルとヴァルトは肉体を武器にする、格闘系の複合スキル〈才能〉持ちだ。

 スキル〈才能〉には強さのランクがある。とくに『戦闘』スキル〈才能〉は、ランクが重要視された。

 最低ランクはDとC、平均はC+とB。ちょっと良くなってB+。一般的にはBとB+までのランクが標準とされている。Aランクからは最高ランクと呼ばれ、あまり多くはいない。

 ライオン傭兵団が世間に名を轟かす理由の一つが、一部例外を除き、皆最高ランクのスキル〈才能〉持ちだからだった。

 ガエルは格闘系複合スキル〈才能〉のSSランク、メルヴィンは武器系剣術スキル〈才能〉SSランクだ。

 嫌でも戦闘と向き合うことになる軍人たちの中には、『戦闘』スキル〈才能〉を持たない者もいる。頭数合わせの徴兵たちだ。そうした者たちとスキル〈才能〉持ちでは、戦闘力に歴然の差があり、そこからランクが高い者が相手だと、軽い喧嘩でも命懸けになってしまう。最高ランクのスキル〈才能〉を持ち、さらに熊と人間二つの特徴を兼ね備えるトゥーリ族であるガエルのパワーは、一般兵程度じゃ防ぎきれたものではなかった。

 ガエルが拳を振り下ろすたびに、複数の人間が雑草のようになぎ倒され、蹴りを入れるたびに宙を舞った。直接拳を叩き込まれた兵士は、兜が割られ頭部が爆ぜる有様だ。

 この戦場でガエルに太刀打ち出来る者は、ソレル王国軍には一人も存在していないようだった。