【小説】片翼の召喚士-episode043

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
この記事は約7分で読めます。

ナルバ山の遺跡編-episode043 【片翼の召喚士】

「カーティスあれ」

 背中合わせに立っていたマーゴットが、すっかり濃紺色に染まった空を指差す。カーティスは顔を上げると、夜空を有り得ないほどの巨大な鳥が飛んでいく様が見えた。

「ギャリーたちですか。無事に飛び立てたようですね」

 カーティスは小さく頷くと、銀の杖を構え直した。

「ルーファス、タルコットとハーマンとヴァルトに、戦線を離脱するように念話を送ってください。合流地点で落ち合って、我々も逃げますよ」

「了解だ」

 ルーファスは目の前の兵士を切り捨てると、身体は戦いを続け、意識のみをこらす。

(タルコット、ハーマン、ギャリーたちが脱出した)

(うん、でっかな鳥が見えたよ!)

 まだ暴れ足りなそうなハーマンの、元気な声が脳裏に響く。

(ボクも確認した。周辺の雑魚を掃討しながら、合流地点へ向かうよ)

 タルコットの声も、素直に応じた。

(2人とも気をつけてな。後で会おう)

 ハーマンとタルコットは、無事に合流地点で会えるだろう。そして、若干心配なのが一人。

 陽動すればいいだけなのに、収監施設へ乗り込んでいってしまい、カーティスたちとすっかり離ればなれになってしまった。さすがに施設までは追いかけていけず、ヴァルトは絶賛大放置状態だ。

 ルーファスは念話を送りやすいように、仲間たちにはマーキングをしている。どんなに遠く離れていても、それを頼りに念を送ればいい。しかしこれだけ人が大勢いると、マーキングも探しづらく、ようやくヴァルトを探し当てた。

(ヴァルト、引き上げて合流地点へ向かってくれ!)

(ん? 俺様もう、ごーりゅーチテンにいるぞ)

「……ナンデスッテエエエ!?」

 思わずルーファスは声に出して絶叫する。

(建物ン中のれんちゅー、全部倒したし、ギャリーたちも屋上へ向かったしな。俺様も飛んで脱出した)

 鼻ほじしている姿が目に浮かぶ。

 ルーファスは無言になると、斬り捨てた兵士の死体に片足を乗せ、片手剣の切っ先を死体の腹に突き立てる。そして、八つ当たりする勢いで何度も突きまくった。

(死ね、うぜえ、ごるぁあ!)

 念話ではなく、心の声である。

「な、何をしているんですルーファス…」

 いきなり荒ぶるルーファスに、カーティスが引き気味にツッコむ。

「ン、何でもないヨー」

 ニッコリと笑顔を浮かべ、カーティスを振り向く。しかし目は少しも笑っていなかった。

 死体に怒りの限りをぶつけてすっきりしたルーファスは、普段の穏やかな顔に戻る。

「おっし、連絡はおっけーだよ」

「…判りました。さあ、少々派手にいきますよ」

 軽く頭を振り、カーティスは銀の杖に片手を翳すと、朗々と呪文を唱えだした。

「天もみたことがない稲妻と

 地も聴いたことがない雷鳴を

 遍く全ての想像を絶したる大音響を作り出さん

 イラアルータ・トニトルス!!」

 カーティスは杖を高く掲げる。

 杖から伸びた巨大な雷光が、宙で幾つもの枝のように広がり、アーチ状となって周囲に降り注いだ。

 雷光は轟音と共にうねりだし、地面を激しくえぐり取りながら、鞭のようにしなやかに兵士たちに踊りかかる。幾重にも稲妻を発し、触れたものは感電して死に至った。雷光に飲み込まれたものは強烈な熱で全身を焼かれて消し炭になる。

 ソレル王国兵たちは、騒然となって散り散りになって逃げ惑う。巻き込まれたくない一心で、恐慌状態に陥っていた。

 生き物のようにソレル王国兵たちに襲いかかる雷を、カーティスは汗をにじませ操作する。あまりにも威力が強すぎて、気を抜けば自らも滅ぼしかねない。ハイレベルの魔法使いが扱う高位攻撃魔法だった。

「周辺の敵は、だいぶ散らしたね。みんな逃げ回ってる」

 ルーファスは剣を鞘におさめながら振り向いた。

「判りました。我々もずらかりましょう」

 銀の杖をひと振りすると、カーティスは全身で息を吐き出した。雷光もゆっくりと収束していく。

 周囲に兵士たちがいないのを確認し、カーティスたちは合流地点へ向かって走り出した。

 走りながら、カーティスは顔の汗を手で拭う。

「攻撃魔法は、魔力の消耗が酷すぎますね…」

「いきなりイラアルータ・トニトルスぶちかましてくるとは思わなかったぜ」

 にやりとルーファスは笑む。カーティスはちらりとルーファスを見て苦笑した。カーティスの得意な魔法分野は、強化と弱体系である。攻撃魔法も扱えるが、あまり自身で使うことはなかった。

 辺りを警戒しながら、カーティスの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。

 神を引っ張り出さないと、倒すことができないと言われる大魔法使い。魔法スキル〈才能〉を持つ者たちの頂点に立ち、憧れと羨望を一身に受ける。

「あの方のようには、うまくいかないものです」

 疲労を滲ませた顔で、小さく安堵の息をついた。

「ギャリー組みとカーティス組み、無事鳥に乗って空に出たよ」

 身じろぎせず、キュッリッキがホッとしたように言った。

「それはよかった」

 メルヴィンは胸をなでおろす。

 本拠地を攻めていた陽動部隊と救出部隊、どちらも戦闘など大変だっただろう。とくにギャリー達救出部隊は、非戦闘員を抱えての脱出だ。それを思うと、早く労ってやりたい。そうメルヴィンは思っていた。

「ライオン傭兵団、噂通りすごいんだね…」

 静かな暗闇の中のぽつりとした呟きに、2人の無言の視線が投げかけられた。

「フリーの傭兵たちの間では、凄い凄いって言われてても、何がどう凄いか知ってるヤツってあんまいなくって」

 クスっとキュッリッキは笑う。

「戦場でかち合うと、生存者が殆どいないせいなんだよね。だからそういう意味では、凄いんだろうなって」

 数ある傭兵団の中でも、上位に君臨する代表的な傭兵団。しかしその実態を、正確に把握している者は殆どいない。こうした傭兵団が、自らの功績を周りに吹聴することはないからだ。風の噂のように彼らの強さが伝えられ、それは広がりとともに過大評価となっていく。だからキュッリッキは何がどう凄いのか、まず彼らの働きを見てみたいと思っていた。

 本来傭兵たちは戦場でこそ、その力量を発揮する。しかし、このご時世そう多く戦争が存在するわけじゃない。食い詰めない為に便利屋稼業として、何でも依頼をこなすのがフリーの傭兵たちの辛いところだ。しかし今回のような一国の軍隊を相手に、これだけのことをやってのける傭兵が、どれだけいるだろう。

 小鳥たちの目を通して、彼らの戦いぶりを色々と見ることができた。持ち前のスキル〈才能〉、戦い方、戦闘力、これまで見てきた傭兵たちとは格が違っていた。個々の戦闘能力が高いからこそ、あれだけの無茶がきく。

 昼間のメルヴィンやガエルの戦いを見て、ゾクゾクとした高揚感があった。そして今もまた、アルイールで暴れる仲間たちの戦いを見て、同じ高揚感に包まれていた。

「あんなに沢山敵がいるのに、ヴァルトもタルコットも楽しそうに倒してるんだもん。いわゆるバトル馬鹿、ってやつなのかなあ」

 メルヴィンはちらりとガエルを見やる。当のガエルは腕を組み、太い笑みを浮かべているだけだった。

「あ、ザカリーとランドンも回収したから、あと30分ほどで合流するよ」

 キュッリッキは僅かに肩の力をそっと抜いて、フェンリルの前脚にもたれかかった。

 昼間とはうってかわり、肌寒くなってきたので、キュッリッキに遺跡に入るようすすめたメルヴィンだが、

「みんなのお出迎えするの」

 そう言われて、ガエルもそのまま残り、3人は皆の到着を待った。

 最初にギャリー達救出部隊を乗せた鳥がやってきて、10分ほど遅れてカーティス達陽動部隊を乗せた鳥が合流した。

「お疲れ様~」

「ご苦労でした」

 キュッリッキたちに出迎えられ、ギャリーたちはワイワイ笑顔で無事を喜び合った。

「ガエル、随分とチートな戦闘を楽しんだそうじゃないか」

 鳥の背をするりと滑り降りながら、タルコットはガエルに掴みかかる勢いで詰め寄った。

「フッ、キューリの支援は最高だった」

 腕を組んだまま、ガエルはニヤリと口の端を歪める。

 そしてヴァルトも鳥の背から飛び降りるなり、

「ずりーぞクマ野郎!!」

 そう叫びながら、ガエルの胸ぐらを掴んだ。

 そうして3人は、何人倒しただの数を競い合いながら、どっちが強いか最強か、などと言い合いを始めるのだった。

(やっぱり、バトル馬鹿なの)

 少し離れて見ていたキュッリッキは、呆れたように心でボソリと呟いた。