【小説】片翼の召喚士-episode038

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode038 【片翼の召喚士】

「オレは宮殿騎士やってて、カーティスは軍で魔法部隊の長官をしてたんだ。毎日退屈なあくびに耐えながらネ」

「あなたはまだマシだったでしょう。宮殿行事に出動して、馬に乗ったり剣を構えたりするイベントがあって」

「思い出させないでヨー……親衛隊より泣けてくるほどの、タダの見世物しかやってなかったんだからー」

 ソファの一つに座り、だらしなく脚を投げ出し、ルーファスは泣きそうな顔で天井を仰いだ。騎士時代のことが頭をよぎり、渋面が浮かぶ。

「騎士に憧れて騎士になったのに、何のために騎士になったんだろう、宮殿のお飾り? 貴婦人たちの見世物? いっそ内紛でもおきねぇかなぁと、毎日戦の神に祈ったもんだ」

「そんな物騒な祈りを捧げてもらったら困るな、ルー」

 非難するでも咎めるでもなく、静かな声に言われて、ルーファスは露骨に「げっ」といった表情かおでドアのほうに顔を向けた。

「あはは…すいません、おかえりっす、ベルトルド様」

 ルーファスは慌てて立ち上がり、表情を隠すようにして、恭しく頭を下げた。

「相変わらずなやつだ」

 口元に皮肉な笑みをたたえ、ベルトルドはマントを翻し颯爽と部屋に入ってきた。

「待たせて済まなかったね。古狸たちのくだらない戯言に、まともに付き合っていたせいだ」

 そう言って、ベルトルドは真っ直ぐキュッリッキの前に立つ。キュッリッキを見つめる切れ長の目が、優しく和んだ。

「久しぶりだね、元気にしていたかな?」

 嬉しそうに微笑みながら膝をつき、見つめてくるキュッリッキを、愛おしさを込めるように、ギュッと抱きしめた。

 いきなりのことにキュッリッキはびっくりして、あわわっと目を白黒させる。カーティスとルーファスもギョッと目を見開いた。そんな周りの反応はおかまいなしに、うっとりとキュッリッキを抱きしめているベルトルドの脳天に、勢いよく拳骨が落下した。

「いでっ」

「今すぐその手をどけなさい、厚かましい!」

 ティーセットを乗せたワゴンの横に、アルカネットが涼しい顔で立っていた。拳骨に息を吹きかけ、二発目を狙っている。

 キュッリッキの細い身体をしっかりと片腕で抱きしめ、ベルトルドは拗ねた顔をアルカネットに向ける。

「痛いじゃないか」

「痛いようにやっているんです。さあ、その汚らわしい手をどけて、キュッリッキさんをお放しなさい」

「汚らわしいとは失礼な奴だな、久しぶりに会って、包容を満喫しているんだ。お前こそ茶でも並べてろ」

 一触即発のような緊張感が、ベルトルドとアルカネットの間に静かに漂い始めた。二人は端整な顔に険悪な表情を浮かべ睨み合っている。地鳴りでも聞こえてきそうな雰囲気だ。

(うわぁ…ベルトルドさんとアルカネットさんの間に火花が見えるかも…)

 ベルトルドの腕に抱きしめられたまま、キュッリッキはおっかなびっくり事態を見守った。

(ねえ、カーティス)

(…はい、なんでしょう)

(なんか、キューリちゃんを、取り合ってるように見えるんだケド)

(見えますねえ……露骨に)