【小説】片翼の召喚士-episode036

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode036 【片翼の召喚士】

「何もしてないのに、ゴンドラが勝手に地面を滑ってるの。不思議…」

 船上で動き回っても、ピクリとも揺れないゴンドラのヘリにつかまって、キュッリッキは顔を突き出して、地面を覗き込んだ。

 光る地面は青みを帯びた黒色をしていて、光を弾いて煌く素材が石に含まれているという。その上を、艶やかな白で塗装されたゴンドラが、音も立てず滑るようにして、緩やかに進んでいた。

 本来水の上を滑る小船なのに、何故街の中を動いているのだろう。キュッリッキは不思議でならなかった。それに、水の上を進む船よりも、安定していて揺れないのだ。

「詳しい仕組みは知らないんですが、磁力を応用して動かしているそうですよ、これ」

 これ、と言ってカーティスはゴンドラを指した。

「この地面にも、磁力があるとかどうとか。まあ、人工的に作られた素材らしいんですけどね」

「そうなんだ…」

 説明されても、キュッリッキにも判らなかった。磁石くらいは知っているが、それをどういう風に応用しているかまで、さっぱり思いつかない。

「ハワドウレ皇国は、色々な分野の研究が大好きな国ですしね。イルマタル帝国やロフレス王国よりも、ずっと科学の面では大進歩していると、ヴィプネン族は自負しているようです」

 まるで他人事のような言い方に、ルーファスが面白そうに笑う。

「オレたちも、ヴィプネン族じゃん」

「まあ。ただそう考えるヴィプネン族は、このハーメンリンナに住んでる人々だけですけど」

「んだねー。ヴィプネン族って、種族的になんも特徴ないし。知恵だけでも種族としての、先をいきたいんだろうさ」

 ルーファスは小馬鹿にするように、笑い飛ばした。

「アイオン族は空を翔ける翼があって、容姿端麗でスキル〈才能〉もある。トゥーリ族は人間と動物二つの能力を有していて、更にスキル〈才能〉もある。ヴィプネン族はスキル〈才能〉だけ。だから二つの種族に負けないよう、あらゆる研究をすることにだけは旺盛なんだ」

 若干侮蔑を込めた視線で、すれ違うほかのゴンドラをみやった。進むにつれて、すれ違うゴンドラの数も増えてくる。

「ハーメンリンナのお高くとまった連中は、城壁の外の世界を知らないし、知ろうともしない。つまんない奴らさ~」

 時折すれ違うゴンドラには、立派な身なりの紳士や、着飾った美しい貴婦人たちが乗っている。貴族や上流階級の人々なのだろう。ゆっくりと進むゴンドラの上で、優雅に周りの景色に溶け込んでいた。

 物珍しそうに見ていたキュッリッキは、小さく首をかしげてルーファスを見る。

「ルーさんは、ここの人たちが嫌いなの?」

「うん、反吐が出るほど、大嫌いさっ」

 あぐらをかいた脚の上に肘をついて、嫌そうに吐き捨てた。

「ふーん、そうなんだ…」

「でも」

「でも?」

「巨乳のねーちゃんたちは大好きだ」

 ニシシッと笑うルーファスを見て、キュッリッキは口の端を露骨に引き攣らせた。

 自分は大の巨乳好きだ! と、この間言われたことを思い出し、キュッリッキは自然と自分の胸元に視線を向けて、ひっそりとため息をついた。どんなに食べても太らない体質は、胸のほうにも均等に肉が回らないらしい。

 実は、とてもとても巨乳に憧れている。必死に胸周りの肉をかき集めて寄せてみるが、かき集めるほどの贅肉がないため、無駄な努力に終わっていた。

 ゴンドラは緩やかな速度で迷いなく進み、北の区画へ進路をとった。