【小説】片翼の召喚士-episode034

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode034 【片翼の召喚士】

 ライオン傭兵団は出発前に、幾人かの情報屋から、ソレル王国の現状についての情報を仕入れていた。さすがになにも判らず状態で乗り込むほど、素人ではない。

 一つは軍の動きが慌ただしいこと。警務部の管轄へ強引に介入していて、命令系統がかなり乱雑気味だという。誤認逮捕や武力行使をして、市民感情を逆なでしているというのだ。

 もう一つは、傭兵の動きに過敏になっているという。傭兵ギルドの身分証を携帯している傭兵たちを、無理矢理取り調べたり、嫌疑をかけたりもしているそうだ。

 恐らく、ハワドウレ皇国のアルケラ研究機関ケレヴィルの研究者を、不当逮捕したことによる影響だとカーティスは睨んでいた。お偉方が密かに事を成すために、傭兵を駒のように使うのは常套手段である。

 そのためライオン傭兵団は、2箇所のエグザイル・システムを利用して、ソレル王国への侵入を試みた。

 首都アルイールよりまだ近い方にある、カバダ村のエグザイル・システムへ確保部隊が向かい、救出部隊と陽動部隊は、時間差をつけて首都アルイールのエグザイル・システムへ向かった。

 幸いカバダ村のエグザイル・システムにはソレル王国軍は待機しておらず、警戒することもなくすんでいた。一方、救出部隊と陽動部隊が、ソレル王国軍に捕まったという連絡は、まだ入ってきていない。

「移動は徒歩になりますよね。もう出発したほうが良さそうです」

 メルヴィンは荷物から日よけのための外套を出しながら、ブルニタルに顔を向ける。

「そうですね。こんな廃墟と化した村では、馬などの移動手段も取れないですし、もう出発しましょう」

「ねえ、空から行ったら早いよね?」

 キュッリッキはブルニタルの肩を、ツンツンと突っついた。

「そりゃあ早いですよ。でも、魔法もサイ《超能力》も持っていませんから、空を行くのは無理ですね」

「空飛んでいけるよ」

「どうやって?」

「こうやって」

 キュッリッキは肩にとまっていた黄緑色の小鳥を指に移らせると、そっと空に放った。

 小鳥は数回羽ばたいたのち、銀色の光に包まれ、ドスンっという音を立てて地面に降りた。

「………!」

「デカイな」

 ガエルは満足そうに頷いた。そして、日よけの外套を荷物から取り出した。

 黄緑色の羽根に覆われた小鳥は、ガエル級が10人乗っても、余裕が有るほどの大きさになっていた。

 ブルニタルもメルヴィンも、唖然と目を見開いて、デカくなった小鳥を凝視していた。

「この子に乗って行ったら、あっという間に着くよね」

 キュッリッキは「えっへん」と胸を張った。

「キューリ、外套を着込んでおけ」

「うん」

 ガエルに促され、キュッリッキも荷物から外套を引っ張り出す。

「召喚士は、なにかと便利なんですね」

 メルヴィンは嬉しそうに笑った。

 ブルニタルは目を白黒させながらも、その手はしっかりメモ帳に何事かを綴っていた。

「たっ、高いですね」

 アワワッと小鳥の羽根にしがみついて、ブルニタルは身を沈めている。

「火脹れが出来ないよう、フードをしっかりかぶっておけ」

「はーい」

 ガエルの大きな掌で頭を押さえつけられ、キュッリッキは首を引っ込めていた。

 キュッリッキが召喚していた、黄緑色の羽根を持つ巨大化した小鳥の背に乗り、確保部隊はナルバ山を目指して、西に飛んでいた。

 小鳥はかなりのスピードで飛んでいるのか、前方から吹き付ける風が強く、また陽射しも強い。軽くてすぐ吹き飛ばされそうなキュッリッキを、ガエルは頭を押さえて飛ばないようにしていた。それに、メルヴィン、ガエル、ブルニタルはまだいいが、キュッリッキのような白い肌は、こんな強い直射日光に当たると火傷してしまう。なので、フードも飛ばないようにするためでもあった。

「アタシたち、エグザイル・システムのようなものを確保したあと、その場でずっと見張りでもしておけばいいの?」

「そうですね。占拠してその場を確保し、後に救出されてくる研究者たちの調査が円滑に続行出来るよう、救出部隊と我々で護衛も兼ねることになります。さすがにあの大きなシステムを持ち帰るのは難しいでしょう、エグザイル・システムと同じ大きさならば」

「んー、持ち帰れないことはないけど、動かさないほうがいいんだよね、ああいうのって」

 事も無げに言うキュッリッキに、ブルニタルはズズイっと詰め寄った。

「持ち帰れるんですか!?」

「う、うん」

「どうやって!」

「アルケラの子たちに手伝ってもらえば、造作もないよ」

 キュッリッキの膝の上で、フェンリルが小さく鼻を鳴らした。隠れている必要もないので姿を現している。

 二人の会話を聞きながら、

(それなら引越しは一人でも出来たんでは…)

 と、メルヴィンは思ったが黙っていた。

「召喚スキル〈才能〉とは便利な力ですね。万能じゃないですか」

 必死にメモをするブルニタルを困ったように見やり、キュッリッキは肩をすくめた。

 歩けば半日はかかる距離を、優雅な空の旅で、2時間ほどで目的地手前まで到達していた。

「あの山が、ナルバ山でしょうか」

 メルヴィンが前方を指すと、頂きに雲をまとわせた緑のない岩肌の、大きな山が見えてきた。

「あの山で間違いないです」

 ブルニタルが断言すると、キュッリッキは小鳥の背を軽く突っついた。

「そろそろ目的地だから、下から見えないようになってね」

 小鳥は小さく喉を鳴らし、了解の合図とした。

 ブルニタルはキュッリッキに、山の中腹辺りに鳥に降りてもらうよう指示をし、キュッリッキはそれを伝えた。しかし巨鳥が舞い降りるような場所が見当たらず、結局麓に着地することになった。

「戦闘が起きてもいいように、我々がいますから、大丈夫ですよ」

 メルヴィンにそう言われて、キュッリッキはひと安心した。

 潅木が乱雑に生える地面に音もなく着地すると、小鳥は背を斜めにして皆を滑り落とした。

 4人が着地すると、小鳥はもとの大きさに戻って、キュッリッキの肩にとまった。

「ご苦労様」

 キュッリッキに労われて、小鳥は嬉しそうにピピッと鳴いた。

「さて…ここはどのへんでしょうか」

 ブルニタルは早速地図を広げて、だいたいの位置の目星をつける。

「報告書にあったエグザイル・システムのようなものがある入口は、ここからだいぶ近いようです。恐らく見張りの兵がいる筈ですから、慎重に進みましょう」

 3人とも頷いた。

 麓にも山にも、身を隠す木々が生えていない。大きな岩もほとんど見当たらない。全てが剥き出しなので、敵味方丸見えだった。それに、まだ日中で明るく、見晴らしがいい。

「ねえ、周りの様子を確認するために、偵察出しておこっ」

 そう提案すると、キュッリッキは何もない方角を凝視する。黄緑色の瞳に散らばる虹色の光彩が、より強い光を帯びていった。

 キュッリッキが片手を前方に差し出す。そして、手招きするように掌を広げた。

「おいで」

 そう一言だけ告げると、掌の上に、無数の小さな白い綿毛が召喚された。

「タンポポの綿毛……?」

 ブルニタルはキュッリッキの肩ごしに、掌の上に揺蕩う白い綿毛を凝視した。

「この子たちに名前はないの。アルケラで名前があるのは、フェンリルみたいに神様たちだけ」

 白い綿毛たちはふわりふわりと宙を舞ながら、フェンリルを囲むようにして輪を作った。フェンリルは身じろぎせず、目だけを動かし綿毛たちを見ている。

「タンポポの綿毛よりも、ずっとずっと優秀なんだよ」

 キュッリッキはブリニタルにニヤリと笑ってみせると、しゃがみこんでフェンリルの周囲を舞う綿毛たちに告げた。

「この辺りに、アタシたちに敵対する武装した人間が居ないか、しっかり見てきてね」

 綿毛たちは輪になったままふわ~っと宙に浮き上がると、パッと羽虫のように飛んで四散した。

「確かに、綿毛はあんな飛び方はせんな」

 ガエルは面白そうに、口の端を上げて笑った。メルヴィンも感動したように頷く。

「3人とも、これを頭に乗っけてくれる?」

 キュッリッキの掌には、3つの綿毛がフカフカ浮いていた。

 首をかしげるガエルとメルヴィンと違い、ブルニタルは感極まった表情で綿毛をつまむと、頭の上にそっと乗せた。

「恐らく四散した綿毛たちの見た映像が、この綿毛を通じて、一種のテレパシーのようにして、私たちの脳裏に浮かぶんですよ。ですよね?」

「ぴんぽーん。正解」

 すぐに理解してもらえて、キュッリッキは嬉しそに微笑んだ。

「なるほど~。それは便利ですね」

 メルヴィンとガエルも、それぞれ頭に綿毛を乗せる。

「風で飛んでったりしないか? こいつは」

 ガエルは黒い頭部に、小さな糸くずのように乗っている綿毛を指す。

「だいじょーぶ。タンポポの綿毛じゃないからね。見た目はちっさくっても、ちゃんと意思があるから」

 キュッリッキは自信満々に、太鼓判を押した。