【小説】片翼の召喚士-episode033

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode033 【片翼の召喚士】

「呪文か何かを呟きながら、おどろおどろしい儀式とかして呼び出すんだとばかり思ってましたけど、いやはや、場所を問わないっていうのは、いいことですねえ」

 カーティスは一人納得しながら頷いている。

「なにそれ…」

 思いっきり不可解そうな表情を向けられて、カーティスは簾のような前髪の向こうの目を、明後日の方へと向けた。

「娯楽小説に、そんな行(くだり)があるんです」

「……ふむ」

「そんな小説話はどうでもいいんです! では次!」

「はいっ」

 ビシッと言うブルニタルに、キュッリッキは思わず腰を浮かせた。

「召喚で呼び出されるものには、どんな事ができますか? 攻撃、防御、回復、強化などなどですが」

「全部できるよ」

「!」

 ブルニタルはマダラ模様の尻尾を、ピーンッと立たせた。

「魔法と同じことが可能なんですね!」

「うん。魔法やサイ《超能力》と似たようなこと出来る。この小鳥も、通信出来るでしょ。今呼び出したのも、通信出来る小鳥の仲間だよ」

 キュッリッキの頭の上で、囀り続ける小鳥たちは、何だか誇らしげである。

「あ、あと、ベルトルドさんもびっくりしてたけど、召喚出来る数には限度がないから、呼びたいものは全部呼び出せるからね」

「ファンタスティック!!」

 ブルニタルは立ち上がり、パチパチと拍手しだした。このままいくと、大号泣しながらブラボーとか叫びそうである。

「本当にファンタスティックですね。班分けも、これで決まりです」

 満足そうにカーティスはニヤリとすると、一枚の紙をテーブルの上に置いた。

 メルヴィンとキュッリッキが覗き込む。

 陽動部隊に、カーティス、マーゴット、ルーファス、ハーマン、ヴァルト、タルコット。

 救出部隊に、ギャリー、ザカリー、ペルラ、ランドン、シビル、マリオン。

 確保部隊に、メルヴィン、ブルニタル、ガエル、キュッリッキ。

「確保部隊って、エグザイル・システムみたいなもの、のこと?」

 キュッリッキが問うと、カーティスは「そうです」と答えた。

「ケレヴィルの研究者たちを救出するためには、救出にも陽動にも、かなり人員が必要になります。なにせ、敵の本拠地へ乗り込みますから。エグザイル・システムのようなものに、どのくらいの戦力が投入されているか見当もつきませんが、キューリさんが召喚で色々カバー出来るとなると、確保部隊へ回す戦力は、これで充分になります」

「ええ、良い支援が期待出来るので、オレもガエルさんも、思いっきり戦えます」

 メルヴィンも満足そうだ。

「ベルトルド卿のほうで急ぎ、多少なりとも偵察をしてもらいましたが、だいぶ厳重なようで、やりすぎると相手の警戒を煽るだけなので、ぶっつけ本番よろしく! だそうです」

「……」

 これでは本当に丸投げである。

「では、細かいことをこれから詰めますので、キューリさんは部屋へ戻っていいですよ」

「はーい」

「今日は色々と疲れたでしょうから、ゆっくり寝てください」

「ありがとう。じゃあ、おやすみなさーい」

 おやすみ、と3人から返されて、キュッリッキはニッコリ笑って部屋を出た。

 翌日、朝食後にカーティスから、今回の仕事の件での、作戦と班分けが通達された。

 キュッリッキは、とてもワクワクしていた。ライオン傭兵団としての彼らとの仕事は、今回が初めてなのだ。

 入団テストの時は、一緒にいたギャリーたちは見学をしていただけで、仕事はしていない。

 彼らがどんな風に仕事をするのか、最強の噂は本当なのか、これからそれを見ることができる。そして、確保部隊のキュッリッキは、支援や強化等、あらゆることを担当するよう言われていた。

 ガエルは戦闘の格闘複合スキル〈才能〉を持ち、肉体そのものを武器に暴れまわる。

 メルヴィンは戦闘の剣術スキル〈才能〉で、ハワドウレ皇国でも五指に入るほどの実力者だと言う。更に魔剣も備えているそうだ。

 ブルニタルは記憶スキル〈才能〉を持つ軍師なので、戦闘は直接行わない後衛だ。

 記憶スキル〈才能〉とは、一度目にしたもの、耳にしたもの、味わったもの、触れたもの、感じたものの全てを記憶に留め、死ぬまで絶対に忘れない。記憶障害や痴呆症とも無縁であるという。

 一見地味なスキル〈才能〉に思われがちだが、これは凄いスキル〈才能〉である。人間は、必ず忘れる生き物だ。それなのに、死ぬまで一生全てを覚え続けていられる。その反面、忘れたいことも覚え続けるから、ある意味精神がタフでないと厳しいとも言われていた。

「みなさん頑張ってくださいよ。そして報酬は期待していいですからね。依頼主はベルトルド卿なので、ガッポリふんだくれます」

 オーッ!と喜びの声が食堂を震わせる。稼いでなんぼの傭兵なのは、どこも共通の精神だ。

 キュッリッキもみんなと同じように、両手を挙げて気合を入れた。

「では、準備は昼までに終わらせてください。昼食を済ませたら出発です」

 ライオン傭兵団が出発の準備に勤しんでいる頃、今回の依頼主であるベルトルドは、執務室の窓際に立って、空を眺めていた。

「おはようベル、珍しいじゃない、あーたが先に出仕してるなんて」

 リュリュが執務室に入ってきても、ベルトルドは微動だにしなかった。

「どうしたのん? こんなに天気がいいのに黄昏ちゃって」

 ベルトルドの隣に立ち、顔を覗き込む。

「オデットが旅立った」

 たっぷりと間を空けて、

「は?」

 とリュリュは訝しんだ。そしてデスクの上の隅にあるカゴを見ると、チンチラがいない。

「恋の季節なんだそうだ。この俺より良い男を見つけ、子供を作って所帯を持つんだと言っていた」

 フッと悲しげに微笑み、ベルトルドは目頭を押さえた。

「きっと、俺が恋をしたから、だからオデットは身を引いたんだな」

 リュリュは、三流の昼メロならぬ朝メロを見ている気分で、何と答えていいか頭をぐるぐるさせていた。

「ねずみうさぎのくせに、健気なやつだ。ねずみうさぎにしておくには勿体無いほどだ、なあ」

 なあ、と言われましても!? と、リュリュは垂れ目を眇めた。それに、ねずみうさぎではなく、チンチラだと教えても覚えやしない。

「まあ、この俺に匹敵する、あるいは上回るほどの男なんぞ、この世のどこを探してもおらんだろうが、ねずみうさぎには、そこそこの男はいるかもしれん。この俺が見込んだ女だ、良い男を捕まえて、幸せになって欲しい」

(小動物の言葉が、ほんとに判るのかしら…? Overランクって凄いのねえ…)

 キザったらしく言うベルトルドを胡散臭げに見て、リュリュは呆れたように首を振った。

 後日、姿を消したチンチラのオデットは、世話係をしていたエーメリ少年の宿舎に現れ、エーメリ少年と幸せに暮らしているとのことだった。そのことを、ベルトルドだけは知らなかった。

 ハワドウレ皇国があるワイ・メア大陸の、ちょうど反対側にあるモナルダ大陸。南の海岸地方の一部を、ハワドウレ皇国から統治を任された、メリロット子爵家によって興されたのがソレル王国だ。ソレル王国はとくに、超古代文明の遺跡が多く出土し、その遺跡から発見された名を取って、国の名としている。

 ソレル王国が所有するエグザイル・システムは2つ。一つは首都アルイール、もう一つは、なぜか首都から遠く離れた辺境の小さな村カバダだった。

 エグザイル・システムは物質転送装置で、世界中の至るところに存在している、超古代文明の遺産の一つと言われていた。人々はエグザイル・システムのあるところを中心に、村や町を興した。

 カバダ村もきっとそうだったのだろうが、エグザイル・システムのある建物から外に出ると、砂に飲み込まれた廃墟があった。

「数十年くらいは経っていそうな光景ですね、ここ」

 メルヴィンは眩しい太陽の光を遮るように、手をかざして目を細めた。外へ出た途端、眩しい光とむわっとした空気が押し寄せてきて、自然と不快げに顔が歪む。

 石造りの神殿のような中にエグザイル・システムはあるが、こもる空気は黴臭く、新鮮な空気を求めて外に出ると、この湿度と熱気だ。

 ソレル王国は湿潤な気候で、真夏を前にして気温が高いうえに、とにかく蒸し暑い。おまけに清々しいほどの晴天だった。まだ5月の終わり頃だが、すでに夏の気温である。

「……なんだこの蒸し暑さは…、サウナの中にいるようだ」

 普段無口なガエルが、いつになく文句を呟き続けていた。愛嬌ある動物のクマと違い、引き締まった鋭い顔をしている。しかし、今はあまりの暑さに、顔が弛緩していた。

「やっぱ、クマさんだから暑いの?」

 下から見上げるキュッリッキが、不思議そうに言う。

「俺の育った土地は比較的寒かったし、乾燥していたからな」

「そうなんだ~」

 顔を覆う短い黒い毛が、いかにも暑そうに湿っていた。

 2メートルを越す巨体は、同じように背が高いヴァルトと違い、重厚な筋肉に覆われていてどっしりとしている。しかしその筋肉も覆った黒い毛は、この湿度の中ではさぞ鬱陶しいだろう。

 あまり口を開かないガエルが、いつになく文句モードに入っているので、キュッリッキにしてみたら、珍しく面白かった。ガエルが弱音を吐くところなんて、そう滅多に見られないだろう。

 隣に立つキュッリッキが、目を輝かせて見上げてくるので、ガエルは不吉を感じて眉間を寄せる。

「暑くてしょうがないから、抱きついてくれるなよ」

「はーい」

 腕に飛びつこうと狙っていたのに、牽制されてしまい、キュッリッキは肩をすくめた。アジトにいるときなら、飛びついてもぶら下げてくれていたのに、さすがにこの暑さの中では嫌なようだった。

 3人から少し離れた建物の影のあるところで、地図を見ていたブルニタルが、では皆さん、と声をかけてきた。

「ここから半日ほどの距離にあるナルバ山に、例のエグザイル・システムのようなものがあるようです」

 ブルニタルは真っ直ぐ西を指さした。