【小説】片翼の召喚士-episode033

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode033 【片翼の召喚士】

「気絶させてどうするんじゃ」

「コイツが勝手に気絶しただけだ、俺のせいじゃない」

 玉座から溜め息混じりに文句を言われ、ベルトルドは拗ねたように皇王を振り向く。

「まあ、国政を担っている者だからこその発言だったのう」

「そうだな、世界征服などという恥ずかしい夢を語る愚か者には、毎日あの山積みの書類を決裁させればいいんだ。そうすれば、いち部署の主任にすら、なりたがらないだろう。俺が保証する」

 ベルトルドが大量の仕事を毎日こなしているか、皇王もよく知っている。ミスもなく、しかも早い。アレよコレよと仕事を押し付けてきたが、まったく根をあげないのだ。それで調子に乗って仕事を増やしてきたが、今回も新たに押し付けようと企んでいた。

「さて、お前にも本題じゃ」

「浮気の説教は聞かん!」

「……そうじゃないわい」

「ならいいが。それに俺は、もう宮中のメス豚どもを相手にする気はないからな」

「ほほう?」

「俺だけの、愛らしい花を見つけたんだ」

 急にベルトルドの表情かおが優しく和み、皇王は目を丸くした。あんな表情など初めて見るからだ。

 愛らしい花とやらを思い浮かべているのか、愛おしげに柔らかで、女が見たらうっとりと気を失いかねない、最高に優しい笑顔だった。もとより端整で美しい顔立ちなだけに、より一層輝く。

 普段やんちゃなベルトルドに、あんな表情をさせる女性とは、どんな美女だろうと、皇王は興味を覚えた。

「脱線してしもうたわい。――おい、大至急ここにブルーベルを呼ぶのじゃ」

 侍従に命じると、侍従は急いで謁見の間をあとにした。

 20分後、謁見の間にブルーベル元将軍が到着した。

「至急にとのお召に、参上いたしました、陛下」

 そう言って、ブルーベル元将軍は大きな体躯を優雅に折って跪いた。

「……おや」

 気絶したまま転がっているキャラウェイ将軍に気づき、ブルーベル元将軍はつぶらな瞳を瞬かせた。

「それは暫く放置で構わん。実はの、そなたを不当な理由で罷免してしまったが、疑いを晴らし、再び将軍職に戻したいと思う。引き受けてくれるかな?」

 ブルーベル将軍は、恭しく頭を下げた。

「ありがたき御言葉。このブルーベル、終生この国に仕え、陛下と民をお守り申し上げます」

「感謝するぞ」

「理由は聞かなくてもいいのか? ブルーベル将軍」

 小さく首を傾げたベルトルドに、目を細めてブルーベル将軍は頷いた。

「大体は、このキャラウェイを見て察しがつきました。陛下が疑いを晴らしてくださるとのことなら、それ以上の理由は要りませぬ」

「なるほどな」

「お前の復職は、このベルトルドの手柄でもある。感謝はベルトルドにするがよい」

「左様でございますか。副宰相閣下にも、御礼申し上げます」

「俺は特に、何もしていないんだがな。まあ、ブルーベル将軍が戻ってありがたい」

「これで軍の綱紀も改まる。そこでベルトルドや、お前に最大級のご褒美をあげようと思うんじゃがの」

「ご褒美?」

 何だか嫌な予感がして、ベルトルドは眉を寄せた。そしてその予感は、物の見事的中するのである。