【小説】片翼の召喚士-episode027

chapter-2.ナルバ山の遺跡編
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ナルバ山の遺跡編-episode027 【片翼の召喚士】

 まさかの展開だ! とルーファスは思った。カーティスはやっぱりか、と思いつつ、アルカネットまでキュッリッキを気に入った様子なのには驚いていた。

(ヤダナー、二人共ロリコンだったの~?)

 念話でルーファスが素っ頓狂な声を上げる。

(ベルトルド卿に聴こえますよ)

(大丈夫だよ、アルカネットさんと睨み合ってるし)

 Overランクのサイ《超能力》を持つベルトルドは、自身がサイ《超能力》を使っていなくても、近くにいる他人の心の声や思考が、勝手に流れ込んできてしまうことがあるという。そのことを知っているライオン傭兵団は、ベルトルドの近くにいるときは、なるべく本音や文句は、漏れ聴こえないように注意していた。

(キューリちゃん激カワだし、綺麗でちっさいでしょ、中年にはツボなのかなあ)

(あなたの場合は、アレで巨乳だったら、モロ範疇でしょうに)

(そーなのよ。巨乳じゃないのがチョー残念でねえ~)

「喧しいぞ貴様達! モロ聴こえとるわ!!」

 いきなりベルトルドから怒鳴られて、カーティスとルーファスは首をすくめた。

「ったく、兎に角貴様ら座れ。ちょっと長い話になる」

「はい」

「へーい」

 カーティスとルーファスは、ソファに腰掛けた。

「さあリッキーも、こっちに一緒に座ろうな」

 ”リッキー”と呼ばれて、キュッリッキは不思議そうにベルトルドを見上げた。

「アタシのあだ名、ベルトルドさんに教えたっけ?」

「俺は何でも知ってるんだぞ」

 ニコニコと言われ、キュッリッキはふむむ、と眉を顰めた。

「あだ名は”リッキー”と言うのですね。では、私もそう呼ばせていただきます」

 アルカネットもニッコリと言った。

「キュッリッキちゃんのあだ名は”キューリ”って、ヴァルトが命名してますよー」

 トボけたような口調でルーファスが言うと、

「アタシのあだ名はリッキーなのっ!」

 尖った歯でも生えてそうな顔で、キュッリッキが速攻訂正を入れた。

「ふむ、キューリか。呼びやすそうなあだ名を考えついたものだ」

 妙に感心したようにベルトルドが言い、

「そうですねえ」

 と、アルカネットも笑い含みに同意した。

「ちょっと褒めないでよっ!」

 真っ赤に染まった顔をガバッと上げて、今にも噛み付きそうな勢いでまくしたてる。そんなキュッリッキの様子に、ベルトルドは愉快そうに笑った。

「ベルトルド卿は面白いあだ名を知ると、それで呼びたがるんですよ」

 カーティスは困ったような表情で首を振った。

「おかげで私のあだ名は、キューリさんより酷い酷い」

 そんなカーティスを見て、ベルトルドは意地の悪い笑みを浮かべて、キュッリッキに向き直った。

「カーティスという名も、ちょっと言いにくいだろう。それでヴァルトにあだ名を考えるよう言ったら、1分も経たないうちに”カス”というあだ名を考えついてくれた」

 同時にルーファスとアルカネットが吹き出し、キュッリッキは口の端を引きつらせるだけだった。笑いたいのか呆れたいのか複雑な気分だ。

「あいつのユニークさは認めるが、傭兵団のリーダーを『カス』呼ばわりは出来ないからな。ヴァルトの案は却下だ」

「そうしてください。まだ『クズ』と言われるほうがマシです…」

(アタシはどっちも却下だもん!)

「あだ名の件はまたの機会に検討しようか。では本題に入る」

 カーティスとルーファスは真顔に戻ると居住まいを正した。

 応接テーブルの上に、濃紺色で描かれた花柄の白い磁器のカップが並び、うっすらと湯気を燻らせる紅茶が注がれた。

 紅茶の澄んだ香りが室内に広がり、そこへバターやチョコレート菓子の甘い香りが溶け合う。

 ベルトルドとキュッリッキはソファセットには座らず、近くの長椅子に座った。そしてアルカネットも、長椅子のそばに控える。

 ベルトルドは紅茶を一口啜ると、サイドテーブルにカップを置いた。

「アルケラ研究機関ケレヴィルの連中が、つい先日ソレル王国へ調査に出かけた。あの国は遺跡に関するものが多く出土することで有名だが、ケレヴィルの連中が見つけたものは、とあるエグザイル・システムだ」

 一旦区切ると、ベルトルドはアルカネットに手を差し出した。アルカネットは抱えていた書類の束を手渡す。

「貴様らも知っての通り、エグザイル・システムは物質転送装置だ。そして、ケレヴィルが見つけたエグザイル・システムは、我々の知るものとは少々違うものだという」

「違うもの、ですか…」

 カーティスが怪訝そうに復唱する。

「そう、違うものであると判った報告書がこうして届き、その直後、ケレヴィルの連中はソレル王国の兵隊たちに捕まったそうだ」

 書類をめくりながら、ベルトルドは感情の伺えない声で言い放つ。

 キュッリッキは首を伸ばして書類を覗き込む。真っ白な紙には丁寧な文字で、その件の報告が綴られていた。難しい字も多くて、キュッリッキは全部の内容を把握しきれなかった。

「隠れてコソコソ調査していたわけじゃあないんだが、何故このタイミングでソレル王国が動いたのか判らん。遺跡調査に関しての許可書類には、俺のハンコが押されていたんだがな。――あのエロメガネが勝手に押してったらしいが」

 ベルトルドの顔が、忌まわしいことを思い出して歪む。リュリュにお仕置きされた直後にシ・アティウスが来て、気絶している間に勝手にペタペタ押していったらしい。

 アルケラ研究機関ケレヴィルとは、伝説上の神々の世界アルケラに関する研究をするための組織である。その他にも、失われた超古代文明の研究、関連遺跡の調査、探索なども行っていた。そしてベルトルドはケレヴィルの所長職も兼任している。

「ソレル王国は独立の形をとってはいるが、所詮皇国の属国に過ぎん。ケレヴィルに手を出すということは、この俺を、ひいては皇国を敵に回すということだ」

「それでは、要請して軍を動かしますか?」

 ルーファスが身を乗り出すと、ベルトルドは首を横に振った。

「いや、軍を出すには状況が中途半端だ。皇国を敵に回すような行いをしてはいるが、明らかな宣戦布告をしてきたわけじゃないしな。ソレル王国の真意も見えてこないし」

「それで、我々の出番というわけですか」

「そういうことだ」

 小さく笑みを浮かべたカーティスに、ベルトルドは頷いた。

「今回は俺の依頼で動いてもらう。研究員たちの奪還、エグザイルシステムの確保、ついでに少々暴れてもらって構わない。そして人員は任せるし、全員連れて行ってもいい。詳細も全部お前に丸投げするから好きにやってくれて構わん。ただし、キュッリッキは必ず連れて行くように」

「判りました」

「リッキー、俺との連絡用に、その足元の仔犬を置いていってもらえるかな?」

 ベルトルドはキュッリッキの足元に顔を向ける。何もいないはずだが、キュッリッキは驚いた顔でベルトルドを見上げた。

「見えるの?」

「ああ。銀色の毛並みが綺麗だな。召喚したものだね」

 ベルトルドは優しく微笑んだ。

 キュッリッキはまじまじとベルトルドの顔を凝視したあと、足元に顔を向けた。

「見えないように言ってあったんだけど…、バレちゃってたみたいだよ、フェンリル」

 すると、キュッリッキの足元に、突然白い仔犬が現れた。

「俺のスキル〈才能〉はサイ《超能力》だから、隠れていても視えてしまうのさ」

「そうなんだあ~」

「オレ視えなかった…」

 ルーファスはガックリと肩を落とす。

「ベルトルド様とはスキル〈才能〉のランクが違うのですから、気にすることはありませんよ、ルーファス」

 あんまり慰めになっていないことをアルカネットに言われ、ルーファスはますます凹んだ。

「この子の名前は、フェンリルっていうの」

 キュッリッキはじっとしているフェンリルを抱き上げて、膝に乗せた。フェンリルは動かず、じっと目だけをベルトルドに向けていた。アイスブルーの瞳には感情の色が伺えない。

「うんと、この子はアタシの相棒だから置いてくことはできないけど、連絡用に何か欲しいなら、別の子を召喚するよ?」

 その言葉に、ベルトルドは目を見開く。

「一度にいくつも召喚出来るものなのかい?」

「うん。普通にいくつでも出来るけど……」

 逆に怪訝そうに言われて、ベルトルドは驚きの表情を浮かべる。そしてアルカネットと顔を見合わせた。

「それは凄いな。皇国にも保護している召喚士はいっぱいいるが、そのどれもが、マトモな召喚をしたことがない」

「ええ、私も見たことがありません」

 それはキュッリッキには、驚くべきことだった。そもそも、マトモな召喚という表現からして謎である。

「宮中でふんぞり返っている召喚士どもとは、はるかにレベルが違うようだね」

 嬉しそうにニッコリされて、キュッリッキは複雑そうに苦笑した。

「あ」

「どうした?」

 キュッリッキはフェンリルを両手で抱き上げると、ベルトルドの眼前につきつけた。

「この子、今は仔犬モードになってもらってるんだけど、ホントはすご~っくおっきな狼なんだからね!」

 フェンリルは鼻を鳴らすと、退屈そうに小さな口をあけて欠伸をする。

「ほほう…」

 ベルトルドは神妙に目を寄せて、小さなフェンリルを見つめる。そのフェンリルは、小馬鹿にしたようにベルトルドをチラリとだけ見た。

「元の大きさに戻ってもらうとハーメンリンナが潰れちゃうから、取り敢えずベルトルドさんくらいの大きさになってもらうね」

 キュッリッキはフェンリルを床の上に置く。するとフェンリルの身体が銀色の光に包まれ、あっという間にベルトルドの背丈と同じ高さの狼に変じた。これにはベルトルド達もひたすら驚くばかりだった。

「フェンリルは神様なの。アタシのことが心配で、ずっと一緒に居てくれてるの。小さい時から、ずっと一緒なんだよ」

 鼻を寄せてきたフェンリルにしがみつくようにして、キュッリッキはフェンリルに頬ずりした。