【小説】片翼の召喚士-episode09

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode09 【片翼の召喚士】

 正午を迎える数分前に、アルカネットは副宰相の執務室に到着した。

 扉前には左右に衛兵が立ち、誰何することもなく、敬礼をしたあとすぐに扉を開いた。

「お邪魔しますよ」

 扉を開けてくれた衛兵たちを労いながら、アルカネットは部屋の奥へと視線を向ける。

「ああん、アルカネット助けてちょーだい!」

 内股で小走りに駆け寄ってきたオカマに、アルカネットは小さく息をつく。

「なんですかリュリュ」

「ンもう、今朝からずーっとあの調子なのよ、ベルったら」

 秘書官のリュリュが、垂れ目を眇めて憤然と言った。

「……まだモフモフしているんですか、ベルトルド様は…」

 リュリュの肩をポンッと叩いて、アルカネットはデスクの前まで行く。そして顔も上げず、デスクの上にある毛玉をいじっているベルトルドに、冷ややかな視線を注いだ。

「そろそろお時間なのではないですか?」

 視線同様に冷ややかな声音を出すアルカネットに、ベルトルドはニコニコと笑顔を向けた。

「おう、そろそろだな」

 言いながら、白い毛玉を両手に抱えて、モフモフ指を動かしている。

 白い毛玉は桜色の前脚でベルトルドの指にしがみつき、墨色の耳をピクピクさせ、機嫌良さそうにヒゲをそよがせた。つぶらな丸い目が、スウッと細められ、頬がぷっくりと膨らむ。

「一体こんなの、どうしたのよ。ペットショップで買ってきたのん?」

「いえ、屋敷に紛れ込んでいたんですよ。今朝ベルトルド様を起こしに行ったら、ベルトルド様と一緒に寝ていました」

 寝相悪くシーツを蹴飛ばして寝ているベルトルドの腹の上に、この白い毛玉が腹ばいになって寝ていたのである。

「いつの間に俺のベッドに潜り込んだんだ? 俺を襲いに来るとは、中々強気じゃないか。モフモフしているくせに」

 いっそうニコニコと微笑んで、ベルトルドは毛玉をデスクに置いた。

「ところでコイツはなんていう小動物なんだ? ネズミ?」

「アタシが知るわけないでショ」

「私も存じ上げません」

「ふむ。じゃあネズミウサギでいいや」

 いいのか!? とアルカネットとリュリュは、無言で顔に書き込んだ。

 チェアの背もたれに深々ともたれかかると、ベルトルドはキョロキョロと室内を見回した。

「あと一人居ないな、シ・アティウスはどうした?」

「調査が終わらないから、戻ってこれないって嘆いていたわ」

「そっか。あいつも見たいだろうなあ。――しょうがない、中継してやってくれ、リュー」

「判ったわ」

「あいつらやっと、現場に到着したようだ」

 先程までの幸せそうな笑みは潜み、険のある目を細めると、にやりと口の端を歪めた。

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