【小説】片翼の召喚士-episode029

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode029 【片翼の召喚士】

 ヴァルトは藁束の上に立ち上がり、片手を腰にあて、もう片方の手を前方に伸ばすと、人差し指を積まれた木箱にビシリと向けた。

「ありゃ、判っちゃった~?」

 ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。

(見られた!)

「バレバレだろーが、バカ者めが!!」

 ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。

 ザカリーは降参のポーズを取りながら二人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。

「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」

 興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーは息を呑む。

 キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。

(見られたなんて、こんな…)

 自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。

 同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。

 他人に翼を見せることに、激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。それなのにヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。

 屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。

「すまん、ザカリーに気付かなかった」

 そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。

 ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。

「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」

 仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。

 ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。

「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」

「アタリマエダ!!」

 更にヴァルトはふんぞり返った。

「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」

 身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。

「あきらめろん!」

「へいへい」

 ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。

 歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。

(片方の翼が、いびつだったな…)

 話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様と、ヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを、見てしまったということだけは察しがついた。

 二人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだと、後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。