【小説】片翼の召喚士-episode028

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode028 【片翼の召喚士】

 世界には三つの種からなる人間が住んでいる。その中の一つがアイオン族。

 背に2枚の巨大な翼を有し、天空を自在に翔け風を読み、ほとんどの者が優れた容姿を持つ。翼は自在に出し入れ可能で、翼をしまっている状態ではヴィプネン族と見分けがつかない。その性格は気位が高い上に選民意識が強く、他種族を見下す傾向があり、それを隠しもせず露骨に振舞う者が多いことから、アイオン族を快く思わない者が多い。

 帝位に就く時、アルファルドはとんでもない宣言を出した。

アイオン族は完璧であらねばならない! 欠陥品はクズ同然であり、アイオン族を名乗るのもおこがましいのである。飛ばない鳥を鳥とは言わないであろう!!」

 拳をふるい、民衆の前で熱弁した。

「予の治める国にそんな欠陥品はいらぬ、アイオン族の面汚しは即刻排除すべし!!」

 そう布告を出した。

 布告を出された瞬間から、身体に障害を持つ者は容赦なく粛清され、病弱な者まで粛清された。身内にそういった者がいれば、隠す家族までもが処刑され、惑星ペッコに悲劇の嵐が吹き荒れた。しかし、アルファルドが死んで皇太子のレムリウスが帝位を継ぐと、無慈悲な布告は即排除されることとなった。

 しかし40年以上も続いた悪習は、アイオン族に深く根付き、すぐにはぬぐい去られず、それはいまだに暗い影を落とし続けていた。

 幸いなことに、そうした悲劇は本星の惑星ペッコのアイオン族のみで、他惑星で暮らすアイオン族には、アルファルドの悪影響は及ばなかった。

 今はもう、アルファルドの時代ではない。酷悪な悪法は排除され、正常な法が敷かれている。にも関わらず、キュッリッキの身の上には、アルファルドの影響が色濃く降り注いでしまった。

 ヴァルトはヴィプネン族が治める惑星ヒイシにある、自由都市出身である。子供の頃両親から、惑星ペッコで生まれた奇形児の話を、何度か聞かされていた。

 アイオン族に生まれ落ちた、稀少中の稀少、召喚スキル〈才能〉を持った女児の話を。

 召喚スキル〈才能〉は、稀少中の稀少と呼ばれるレアスキル〈才能〉である。1億人に一人の確率でしか生まれてこないとされていた。

 このスキル〈才能〉を授かった子供は、国が家族ごと召し上げ、生涯国の保護下のもとで、安全で優雅な生活を送ることが約束されるのだ。それは、3種族共に決められたことでもある。

 本来なら、種族をあげてその誕生を祝い称えることになっただろうに、奇形児として生まれてしまったため、生まれてすぐ親に捨てられ、挙句同族から蔑まされる羽目になった。奇形――片方の翼が、翼としての形を持たなかったがために。

 その女児の名を、キュッリッキといった。

 ヴァルトの両親はその話をするとき、女児のことを痛々しそうに話していた。

 悪習の名残から、奇形児のことを痛々しく話すアイオン族は殆どいないが、アイオン族の治める惑星ペッコから離れ、他惑星で暮らすアイオン族の中には、そうした偏見を持たない者が少なからず居た。

 ヴァルトの両親も、偏見とは無縁の性格をしている者たちだった。

 人間としてマトモな両親たちに育てられたヴァルトも、偏見意識は殆どない。蔑まれる女児を可哀想だとも思ったし、出会うことがあれば、力になってあげたいとも思っていた。

 その話題の女児が目の前にいる。

 そしてなにより興味深いことがあった。それを確かめたくて、キュッリッキを攫うようにして、ひとけのないここまで連れてきたのだ。

「翼見して」

 ヴァルトは何の感情もこもらぬ声で言う。

 キュッリッキは複雑な表情を浮かべ、きゅっと下唇を噛んだ。両手の拳を握り、肩を震わせる。無言で恨めしそうにヴァルトを睨みつけた。

 そんなキュッリッキの目をものともせず、ヴァルトは青い瞳でただ、キュッリッキの瞳を見つめ返した。その、黄緑色の瞳にまといつく虹色の光彩を。

 ヴァルトは何も言わず、キュッリッキが翼を出すまで黙って見ていた。

 残酷なことを言っているのは判っている。心の傷を抉り出し、不遇の原因となった翼を見せろと言っているのだ。キュッリッキにとって、耐え難い苦痛と屈辱だろうに。それでも、ヴァルトは見たかった。

 キュッリッキはヴァルトを睨み続けていたが、顎を引くと、やがて観念したように目を伏せる。

(どうせ、アタシのこと知ってるんだもんね…)

 カッと怒りが頭にのぼったが、悲しい気持ちがすぐに心に広がっていった。

 ――醜い子! 醜い翼!!

 ――こんな出来損ないを私が生んだなんて!

 この翼のせいで、片翼のせいで、幼い頃から浴びせられ続けた酷い言葉の数々。それがゆっくりと心に浮かび上がってきた。その度に、心がズキリと痛みに震える。

(なんでこんなものが、見たいんだろ…)

 親にも嫌われた、醜い翼なんて。

 急に、どうでもいい気がしてきて、キュッリッキは苦笑した。

 両手を胸の前で交差させ、腕を抱く。僅かに前のめりになるようにして、腕を抱いた手に若干力を込めた。

 バサアアッ。

 粉雪のように、羽根がヒラヒラ舞い落ちる。ヴァルトは大きく目を見開いた。

 そこには見事な翼が右側に一つと、むしり取られた残骸のような翼が左側に一つ。

「噂は、本当だったんだなあ……」

 上ずったような声でヴァルトは呟いた。

 その呟きを、キュッリッキは片翼のことだと思って顔を俯かせた。

「瞳と同じように、翼も虹色の光彩をまとっているのか~。キレーだなあ」

「え?」

「オマエの噂話を聞いたとき、その翼の話も聞いたんだ。召喚スキル〈才能〉を持つと、翼までチガウもんなんだなーって」

 アイオン族の翼は本来白色をしている。クリーム色系をしていたり、青みがかっていたり、個人差は多少あるものの、真っ白な翼をしているものだ。しかし、キュッリッキは生まれ落ちた時から、翼にも虹色の光彩が散らばっていて、それは珍しいと噂になった。

「会うことがあれば、どーーしても、一回見たかったんだ~」

 ヴァルトはニッコリと笑った。

「あんがとな! もう仕舞っていいぞ」

 大満足そうに鼻息をつくと、ヴァルトはふとキュッリッキの背後に目を走らせた。

「おーーーい! そこでなに覗き見してるんだ覗き魔!!」

-つづく-