【小説】片翼の召喚士-episode027

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode027 【片翼の召喚士】

 ライオン傭兵団に引っ越してきて、一週間ほど過ぎても、キュッリッキはまだ談話室に入ることができずにいた。

 今はアジトに全員顔を揃えているし、たいていみんな談話室に揃っている。

 みんな集まる食堂へは、食事をする大義名分があるので行ける。でもどうしても、まだ談話室デビューができない。そんなキュッリッキの様子に、いつ自分から入ってくるだろうと、仲間たちで密かに賭け事が行われていることは知らない。そのせいで、誰かが引っ張っていってくれることもなかった。

 部屋から出て、階段の踊り場でモジモジと、降りる降りないをしながら、溜め息混じりに窓の外を眺めるのが日課になっている。談話室へ行けたとしても、そのあとどう行動すればいいか悩む。

 好きなことをすればいい、と言われていても、その好きなことが思いつかない。話をしてみたいと思っても、どんな話をすればいいかさえ思いつかなかった。

 今日も勇気が出なくて、心の中で葛藤しながら、窓の外をただ眺めていると、

「なーに一人で暗く落ち込んでんだ??」

「きゃっ…」

 背後からいきなり声をかけられて、ぎょっと振り返る。

 そこには両腕を組んで、仁王立ちしながらキュッリッキを見下ろしているヴァルトがいた。

「ちょっとハナシあんだ。付き合えよ」

「……え?」

 ヴァルトは長い腕を伸ばし、窓を全開に開ける。

「あっちいこーぜ!」

「ちょっ」

 ヴァルトはキュッリッキの両脇に手を入れると、そのまま抱えて窓の外に飛び出た。

「やっ」

 浮遊感に一瞬目を瞑ったが、急にガクンっと身体が弾み、すいーっと風が頬を凪いでいった。

「え?」

 目を開けて後ろを向くと、ヴァルトの背から真っ白で大きな翼が生えているのが見える。

(あれって…)

 アイオン族の翼だ。

 それが判った瞬間、キュッリッキの表情に苦いものが過ぎり、辛そうに俯いて唇を噛み締めた。