ライオン傭兵団編-episode024 【片翼の召喚士】
「さ~てぇ、次はぁ、台所よ~ん」
台所に近づくにつれ、美味しそうな匂いが漂ってきていた。
「おじちゃーん、おばちゃーん、ちょぉっといいかしらあ~」
「おやマリオンちゃん、どうしたの?」
「昨日話したでしょぉ、新しい子のこと。挨拶に連れてきたのお」
「ああ」
「あの、キュッリッキです。よろしく」
ぎこちない表情と動作で、キュッリッキはぺこりと頭を下げた。
「まあ、まあ、とっても綺麗な子ねえ。初めまして、私はここの料理当番兼、管理人をしているイングリッドといいます。そしてこちらは旦那のキリ」
「よろしく」
二人は同い年で、今年53歳になるという。ふっくらと優しそうな笑顔のイングリッドは、基本”キリ夫人”と呼ばれている。マリオンや一部の仲間たちは”おばちゃん”と呼んでいた。キリのほうは、まるで枯れ木のように痩せていて、無表情が普通らしい。そしてとても無口だという。
「お二人共、複合の料理スキル〈才能〉を持ってるから、料理は高級レストランよりも美味しいのよん」
「おほほ、マリオンちゃん褒めすぎよ」
嬉しそうにキリ夫人は笑った。
「ホントだもの~」
「あらあら、ありがとう」
「ねえ、今日のお昼ご飯なぁに~?」
「チキンのクリームシチューと、3種類のパスタ、卵サラダにデザートはミルクババロアよ」
「ペペロンチーノあるう?」
「ありますよ」
「やった~!」
「マリオンちゃんは、ペペロンチーノ大好きだものね。ああ、そう、そう。キュッリッキちゃんは、好き嫌いなものはある?」
「え」
二人の会話を見守っていたキュッリッキは、いきなり問われて慌てて考えた。
「えっと、好きなものはポーチドエッグとかムースとか、ババロアも好き。嫌いなものは、生野菜。苦手なの、生野菜のサラダとか」
「あらあら。青臭いのがきっとダメなのねえ。じゃあ、茹でたりした野菜は大丈夫?」
「うん。生じゃなければ、野菜は嫌いじゃないの」
「ふふ、判ったわ」
キリ夫人は優しい笑顔で頷いた。
「お昼ご飯、もうちょっとで出来るから、楽しみにしていてね」
「はい」
キリ夫妻が仕事に戻ったので、二人は台所を出た。
「最後に食堂へごあんな~い」
食堂は談話室よりもちょっとだけ狭いが、道路に面して窓も大きく、明るくてとても広々としている。
10人ずつ向かい合えるほど、長いダイニングテーブルが2台あり、ベンチのような長椅子が、それぞれ1脚ずつ置かれている。
テーブルも椅子も、シンプルな木材で、テーブルの至るところに調味料を入れた瓶が置かれていた。
「ここに料理の皿を持ってきてくれるからぁ~、各自取り皿に食べたい料理を入れて、食べるのよん。ビュッフェっぽい感じね」
「じゃあ残さなくていいね」
「そうね。でもお、美味しいから、ついついとっちゃうのよぉ~」
「そっかあ、楽しみ」