【小説】片翼の召喚士-episode023

chapter-1.ライオン傭兵団編
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 風呂は2つあって、男専用と女専用になっている。脱衣所もあるし、いきなり覗かれずに済みそうだ。浴室はとても広くて、標準的な大人が10人は座っていても余裕が有る大理石貼りの洗い場に、5人なら手足も伸ばせるくらいの真っ白な浴槽があった。シャワーは2本ついていた。

「お風呂広いんだね~。アタシ、お風呂大好きなの」

 ハーツイーズのアパートには、シャワーしかなかった。今日からこの広いお風呂に入れると思うと、キュッリッキの顔には笑顔が広がった。

「一緒に入ろうねぇ~。背中洗ったげるぅ」

「うん」

 窓も大きくて中庭に面している。磨硝子なので透けて見えることはない。

 トイレも男女別で、男女兼用じゃないのは、心底ありがたかった。女子にとって、生理的に辛いのだ。

「談話室、風呂、トイレ、廊下や階段などはぁ、みんなの共有スペースでしょ。だから、毎日当番制でお掃除するのよん」

「お仕事で居ない時は、どうするの?」

「当番のスケジュールを調整しぇて、いきなり当番指名されることもあるからぁ、そこは我慢してねぇ~」

「うん、大丈夫。アタシお掃除も好きだから」

「良かったん。でねぇ、ギャリーとハーマンは掃除が下手なのよぉ。掃除してるんだか散らかしてんだか謎過ぎて困るっていう」

 ハーマンはキツネのトゥーリ族で、今は仕事で留守にしている。歓迎会の時に少し話をしたが、魔法スキル〈才能〉を持っていて、魔法に関する勉強が大好きらしい。それなら、魔法で掃除すればラクなのに、とキュッリッキが言うと、

「あのキツネっ子は、攻撃魔法専門よん」

 そう言ってマリオンはケラケラ笑った。

「ンで、お洗濯も下着は各自、服やベッドのシーツやカバー、タオル類は当番で。中庭があるからあ、そこにズラ~っと干すわよぉ」

「はーい」

「ちなみにぃ、洗濯はメルヴィンが洗濯奉行なの」

「洗濯奉行?」

「洗い方から干し方まで事細かすぎて、メルヴィンと一緒になると、煩いのよぉ…。色物を一緒にするなーとかあ、干す時はシワ伸ばせー、とかあ~」

「オレがどうしました?」

 玄関フロアで話していると、馬車を返しに行ったメルヴィンが帰ってきた。

 マリオンとキュッリッキは顔を合わせると、ぷっと吹き出す。

「え? どうしたんです?」

「なんでもないわよぉ~ん、ね~」

「ね~」

「はあ…?」

 困った顔のメルヴィンをその場に残し、そそくさとマリオンとキュッリッキは台所へ向かった。

「煩いんだけどぉ、さり気な~く、洗った洗濯物をメルヴィンに差し出していくと、パパッと干してくれて、実は一番早く終わるのよお。当人は、手本を見せてるつもりなのねぇ~ぷくくっ」

「それって、いいように使われちゃってるんだね……メルヴィン」

「そゆことっ」

 滑稽なような、それはちょっぴり可哀想な気がして、キュッリッキは薄く笑った。

-つづく-