ライオン傭兵団編-episode022 【片翼の召喚士】
ベルトルドがリュリュから”ねっとり”お仕置きされていた頃、キュッリッキの引越が行われていた。
仕事で抜けられなかったハドリーの計らいで、ライオン傭兵団からメルヴィンとガエルの二人が、助っ人に駆けつけてくれた。
ガエルはクマのトゥーリ族で、身長2mを超える巨躯に、筋肉隆々のガタイの良さ、短い黒い毛に覆われていた。
この世界には、3種の人間がいる。身体的特徴を持たない平凡なヴィプネン族。背に2枚の翼を持ち、容姿に優れたアイオン族。そしてトゥーリ族だ。30種からなる動物の外見と能力を持つ亜人種。
トゥーリ族は人魚以外は二足歩行をするし、服も着る。ガエルは黄色いタンクトップと、白いダボ付いたズボン姿だ。
軽々と荷物を運ぶガエルの腕に、悪戯心でキュッリッキは飛びついてぶら下がる。姿勢を崩すと思いきや、ガエルは事も無げにそのまま荷物を運んでいた。
「お前じゃ重石替わりにもならん」
「えー」
そう言いながらも、キュッリッキは面白がって何度もぶら下がった。その様子を見て、メルヴィンはクスクスと笑う。
ガエルとメルヴィンで運び出された荷物はそう多くなく、馬車の必要性がまるでなかった。
「これならひとつにまとめて、俺が背負ってもよかったな」
「そうでしたね」
メルヴィンは苦笑する。
家具類は全て据え置きのものを使っていたし、もとより荷物が少ない。
でも、とメルヴィンは思う。
(キュッリッキさんが楽しそうだったし、こうしてみんなと馴染んでいければ)
ついつい兄のような気分になっていた。
「キュッリッキちゃん」
アパート前にいると、建物から”おばちゃんズ”が現れた。
「もう荷物運び終わったのかい?」
「うん」
「そうかい。お別れだねえ」
「今度は、ずっと居られるといいね」
「頑張るんだよ」
”おばちゃんズ”は、キュッリッキが抱えてる悩みのことで、中々上手く馴染めず、何度も帰ってきていたのを知っている。
「おばちゃんたち、いつもありがとう。アタシね、今度は頑張れる気がするの」
キュッリッキは恥ずかしそうに、でも、自信を見せて言った。
「ははっ、なら大丈夫だ」
にこやかな”おばちゃんズ”は、大声で笑った。
「まあ、もしダメだったとしても、そんときはすぐに帰っておいで。キュッリッキちゃんの居場所は、ちゃんとあるからね」
「ちょっと、水さしてどーすんだい」
「ヤダよもう」
これにも笑いが起きる。
「帰らなくてもいいように、アタシ頑張るの! でも、おばちゃんたちに会いに、遊びには来るね」
「好い子だよもう!」
キュッリッキは”おばちゃんズ”にそれぞれギュッと抱きしめられ、別れの抱擁に暫し浸った。
馬車の御者席でその様子を見ていたメルヴィンとガエルは、和やかな雰囲気を見て微笑んだ。
別れをしっかりすませ、キュッリッキは荷台へと乗り込んだ。
「じゃあ、行ってきます!」
「元気でねえ~~!」
それを合図に馬車は走り出す。見送る”おばちゃんズ”のほかに、アパートの窓を開けて、幾人かの傭兵たちが手を振ってキュッリッキの旅立ちを見送っていた。