【小説】片翼の召喚士-episode014

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode014 【片翼の召喚士】

 キュッリッキは孤児だ。しかし、些か特殊な例の孤児である。

 生まれてすぐ捨てられ、あろうことか世間は両親の行いを評価し賞賛した。普通なら考えられないことだ。そして一番残酷なのは、そのことをキュッリッキは物心着く頃から聞かされてきた。世間は隠すことなく、両親を賛美し、キュッリッキを貶めたのだ。

 幼い頃を孤児院で過ごし、そこを飛び出したキュッリッキは、傭兵の世界へと身を投じる。守ってくれる大人もおらず、愛情を注いでくれる大人もいない。寂しい世界を一人で生きてきたキュッリッキにとって、家族や親のことに触れられるのは、耐え難い苦痛なのだ。

 折につけて家族や親のことが話題に出れば、キュッリッキは我慢を強いられ、耐えて耐えて話題が終わるのを待つしかない。それなのに、水を向けられたら、キュッリッキにはどうしようもない。

 行き場のない怒りや悲しみなどの感情が爆発し、傍から見れば、それは意味不明の子供の癇癪だ。感情を爆発させたキュッリッキの心の奥深くなど、他人は知る由もない。

 美しい顔を怒りで醜く歪ませ、思いつく限りの罵詈雑言を撒き散らす。他人の制止する声も耳に届かず、ところかまわず暴れた。

 やがて落ち着いてくると、待っているのは周囲の冷たさだった。

 大人たちは白い目と心を抉る言葉、態度をキュッリッキに投げつけた。彼女が何故、そんな態度に出たのか、知ろうともしない。理解しようともしなかった。

 そうして居場所をなくし、自ら抜けてくる。細い肩をさらに細くして、目に涙をいっぱい浮かべて帰ってくるのだ。

 ハドリーはたった一度だけ、そうした場面に立ち会ったことがある。そしてそれが、初めての出会いでもあった。

 暴れている時のキュッリッキには本当に驚いたが、やがて正気に戻ったキュッリッキの、あまりにも落ち込む姿に同情した。潮が引くように周りがキュッリッキを遠ざける中、ハドリーは声をかけたのだ。

 それ以来の付き合いで、もう3年になる。

 最初は中々心を開いてくれなかったが、半年位経った頃、少しずつ自分の身の上を話してくれるようになった。それでキュッリッキの過去を知る。

「リッキー、まだ、始まってすらいない」

 いつもの穏やかで、言い聞かせるようなハドリーの口調に、キュッリッキは面を上げる。

「また失敗するかも、でも、大丈夫かもしれん。なにせ、相手は傭兵界トップのライオン傭兵団だぞ。リッキーがちょっと暴れたくらいで、動じるほどヤワな連中じゃないさ。話を聞いてる限りじゃ、結束が強そうだから、きっと違う目が出るかもだ」

「う、うん」

「失敗したら、また帰ってくればいい。アパートの部屋は、リッキーが落ち着くまでは、そのまま空けておくようギルドには話をつけといてやる」

「うん。ありがと」

「ただ、がっぽり稼いでくるまでは、気合で堪えろよ?」

「へへっ、判った」

 ようやくキュッリッキの顔に、笑顔が戻った。それを眩しげに見やって、ハドリーは心の中で呟く。

(オレにはリッキーの過去は重すぎて、一緒に背負うことはできない。でも、今度はリッキーを本気で支えてくれる奴が現れるかもしれない。ライオン傭兵団と副宰相がついているんだからな…)