【小説】片翼の召喚士-episode013

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode013 【片翼の召喚士】

 カラのジョッキを引き取って、グルフがカウンターへ戻っていくと、コホンッとカーティスが咳払いをした。

「さて、改めまして。今夜はキュッリッキさんの歓迎会です」
 カーティスがジョッキを持つと、全員それに倣う。

「入団テストに合格し、新たに仲間に加わったキュッリッキさん、我々は歓迎します。ようこそライオン傭兵団へ!」

 乾杯!

 皆ジョッキを高々と掲げ、そして中身をグイッとあおった。

「みんな、ありがとう。よろしくね」

 はにかみながら、でも嬉しそうにキュッリッキはにっこりと微笑んだ。こんなふうに歓迎されると、恥ずかしいし、こそばゆいけど、心があったかくなった。

(上手く、やっていけるといいな…)

 キュッリッキはジョッキの中身を見つめながら、願うように心で呟いた。

 ハドリーが言うように、がっぽり稼ぐまで気合で頑張るという目標もあるけれど、これまで感じたことのない、なにかが変わって、世界が開けていくような、ドキドキするような雰囲気を、彼らには感じるのだ。

 それがどんなものなのか、キュッリッキは知りたいと思っている。

(生きる目標みたいなもの…。見つかるのかな、今度こそきっと)

 これまでずっと、ただ生きていくことだけを考えていた。将来の夢とか、目標なんて、考えたこともない。食べるために、生きていくために、働いていた。誰もがそうだろうが、その中に、生き甲斐のようなものが、キュッリッキにはなかった。

(とにかく、自分を抑えて、爆発しないようにしなくちゃ。頑張るんだ、アタシ)

 0時を過ぎた時点で、キュッリッキは眠ってしまった。昨日までの仕事の疲れと、全員と初めての顔合わせ、緊張とアルコールで限界突破してしまったのだ。

 頬を紅潮させたまま、無防備な寝顔をさらけ出している。

「ハーツイーズのアパートまで、送ってきます」

 メルヴィンは立ち上がると、机に突っ伏して寝ているキュッリッキを、そっと腕に抱き上げた。

(見た目通り、やけに軽い子だな…)

 どんなに痩せている少女でも、もっと重いだろうと思う。

「あ、オレも一緒についていくよ」

 ザカリーはジョッキのビールを飲みながら、慌てて立ち上がった。

「ヤダあ、ザカリーってばあ~、部屋がどこか確認してぇ、ナニするつもりなのぉ~?」

 派手な化粧の女――マリオンは、ニヤニヤと意味深な表情でザカリーをからかう。

「んなっ、ちげーよブス!」

「えーん、ブスって言われたあ」

「行こうぜメルヴィン」

「はい。――では、カーティスさん、送ってきます」

「お願いします。気をつけて」

 泣き真似をするマリオンを苦笑しながら見やり、肩を怒らせて歩いていくザカリーの後を、メルヴィンはゆっくりとついていった。

 すでに乗合馬車は走っていない。エルダー街からハーツイーズ街までは、普通に歩いて片道1時間はかかる。

 二人はハーツイーズ方面へ歩き始めた。

「腕が疲れたら、替わるからよ」

「ええ、ありがとうございます」

 ぐっすりと眠っているが、気にならないほどキュッリッキは軽かった。

 ライオン傭兵団のアジトのほうが断然近いのだが、人見知り体質のキュッリッキを、アジトに泊めるのはどうかな、とメルヴィンは思った。まだ引っ越してきていないし、着替えも何もない中、朝目を覚まして恐縮する姿を想像すると、アパートまで送ってやりたくなったのだ。

 歓迎会の席では、ちょっとずつみんなと話をしていたが、アルコールの手助けもある。素面で話すのには、まだ少し時間が必要だろう。

 二人は黙々と暗い夜道を歩いていた。仲が悪いわけでもないし、会話がないということもない。ただ、普段からそれほど積極的に、お互い話をするわけではなかった。

 30分ほど歩いた頃、ザカリーがボソリと口を開いた。

「そいつがさ、ソープワート軍を消し去ったとき、ちょっと怖くなってよ」

「怖い…?」

 少し前を歩くザカリーを、メルヴィンは首をかしげて見つめる。

「直接魔法やサイ《超能力》を使ったわけじゃなく、見たこともない凄い力を呼び出して、それでやってのけてる姿は、初めて見たせいか、なんか怖く感じて」

 ハフッゥっとため息をつき、ザカリーは顔を上げて空を見る。

「なんつーかさ、こんな可愛いくて綺麗な子が、人殺しをするの見るの辛いんだ。1人も600人も同じことだけどよ、やってほしくねーって思っちまう。――こないだのは、オレたちが殺らせたんだけどな」

「そうですね…」

「うまく言えねえんだけどよ、もう二度と、殺しはさせたくねえ。年齢よりずっとガキみたいな雰囲気をしてるくせにさ」

「ええ、オレもそう思います」

 ザカリーが言うように、キュッリッキは年齢よりもずっと幼い。話をしてまだ半日も経ってないが、それだけはハッキリと判った。

 たとえ仕事といえど、殺しがあると気が滅入る。男で年上の自分でもそう思うくらいだ。まだ18歳のキュッリッキには、絶対辛いはずだと思う。

「傭兵という仕事をしている以上、殺し合いと無縁ではありえません。ですが、極力この子には、殺しをさせずに済ませたいですね」

「ああ」

「召喚の力が、どれほどの幅を持っているかまだ判りません。これからそれを教えてもらいながら、支援も出来るのなら、そういう後衛担当を任せたりもいいですね。カーティスさんもこの子の扱いをどうするか、悩んでいましたし」

「カーティスが悩むんなら、オレたちも真面目に考えないとか」

「そうですね」

 ザカリーはメルヴィンの横に並ぶと、キュッリッキの寝顔を覗き込んだ。

「ホント、めっちゃ可愛いよな」

「そうですね。可愛いと思います」

 ライオン傭兵団にも女性メンバーはいるが、キュッリッキと比べると…、などと、男性陣は思ってしまう。

「オレはルーとは違うからな、ちっぱいでもバッチコイだ」

「……」

 メルヴィンは苦笑するにとどめた。

 キュッリッキの住むアパートに到着する。

「ザカリーさんすみません、キュッリッキさんのポシェットから、部屋の鍵を探して、開けてくれませんか」

「おっけい」

 暗い中でもハッキリと見ることのできるザカリーは、イチゴのキーホルダーのついた鍵を見つけて、直ぐにドアを開けた。

 メルヴィンはそっと、キュッリッキをベッドに寝かせる。

 これまでずっと目を覚まさず、朝までぐっすり眠っていそうなほど深い。

「片付いてて、綺麗な部屋だな」

 狭い部屋だが、掃除も行き届いているのが見てとれる。

「女の子の部屋は、綺麗ですよね」

「イヤ、マリオンの部屋はゴミ部屋だぞ。キリ夫人が怒ってるくらいだからな」

「そ、それは…」

「ところでメルヴィン、オレはあることに気づいた」

「え?」

「このまま帰るのはいいんだが、出たあと鍵を閉めるのはどうするよ」

「あ…」

 二人は暫し考え込み、

「仕方がない、朝まで居るか」

「……せめて、起きる前に出ましょうか」

「だな…。朝になれば誰か住人は起きるだろうし。それまではさすがに鍵かかってない状態で一人にはできねえ」

「ええ、迂闊でした…」

 考えが足らなかったことに、メルヴィンは額を抑えて嘆息した。

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