【小説】片翼の召喚士-episode011

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode011 【片翼の召喚士】

 ドアを開けると、知らない男が立っていた。男はちょっと会釈をする。

(確認しないで開けちゃった…)

 ――いいか、女の一人暮らしは危ないんだ。無闇にドアを開けるなよ!

 そうハドリーから念押しされていたのに、迂闊にも開けてしまった。

 無用心に開けたことを後悔しつつ、身を固くして男を見上げる。

 キュッリッキの怯えたような表情を見て察したのか、男はすぐ柔らかな笑顔を浮かべ、慇懃に頭を下げた。

「いきなりごめんね。オレはライオン傭兵団所属の、メルヴィンって言います。今夜キミの歓迎会があるから、迎えに来ました」

(歓迎会……あ)

 明け方カーティスたちと別れる際に、誰か迎えに寄越すようなことを言っていたのを思い出した。

(そうだ、今夜は歓迎会してもらうんだった)

 今時分まですっかり忘れていたので、キュッリッキは内心慌てた。

「ちょっと待っててね」

「はい」

 とは言ったものの、ドアを閉めていいか戸惑い、神妙な顔で考え込む。素っ気ない態度になりはしないか、果たしてドアを閉めていいものだろうか。

「オレは、下で待っていますから。ごゆっくり」

 メルヴィンは感じの好い笑顔で言うと、直ぐにその場から離れていった。それに安堵してドアを閉めると、キュッリッキは室内に駆け込んだ。

 肩出しになっている中袖のオレンジ色のカットソーと、小花がプリントされた白いミニスカートに着替えた。

 自分の歓迎会ということだから、数少ない外出着をチョイスする。

 姿見で身だしなみをチェックし、ポシェットをかけると、キュッリッキは部屋を出た。

「お待たせー」

 下へ降りると、メルヴィンは夕暮れの港の方を見ていた。

「船が沢山見えて、眺めのいいところですね」

「うん」

 メルヴィンの傍らに立ち、キュッリッキは心の中で唸る。

(どうしてこう、みんな背が高いんだろう。こないだのギャリーたちも高かったし)

 自分の背が低いだけ、という点は除外する。キュッリッキと比べれば、大概の人は背が高いのだ。

 スタンドカラーの裾の長い黒い上着に、白いゆったりめのズボン姿のメルヴィンは、肩幅もしっかりあって、威風堂々とした雰囲気をまとっていた。そして、整った顔立ちは、ハンサムという表現より、凛々しいといったほうがしっくりくる。

(傭兵っていうより、騎士とか軍人とか、そんなイメージがする人だな~)

 メルヴィンの顔をジッと見上げてアレコレ考えていると、視線に気づいてメルヴィンは優しく微笑んだ。

「そろそろ乗合馬車が来る頃ですね。停留所へ行きましょう」

「う、うん」

 停留所へ向けて歩き始めたメルヴィンを、キュッリッキは慌てて追いかけた。

 乗合馬車が来るのを停留所で待ちながら、メルヴィンは傍らに立つキュッリッキを、チラッと横目で見る。

 昨日、ルーファスのテレパシー中継で見せられた彼女の戦闘は、仰天するほど摩訶不思議なものだった。巨大な壁と黒い水。一瞬でソープワート軍を消し去った、その凄まじい力。

 18歳と聞いているが、まだ幼さをまとった少女である。童顔というわけではなく、全体的に幼い雰囲気がするのだ。あどけなさと危なっかしさを同居させた、そばにいてやらないと、不安になるほどに。

 こんな少女が、あれだけのことをやってのけてしまう。召喚スキル〈才能〉とは、恐ろしいものだと思った。

 この先どういうふうにキュッリッキを使っていくか、悩みどころではある、とカーティスは言っていた。キュッリッキ自身は、力のコントロールは出来るだろうから、その強大すぎる力を、如何に仕事に活かしていくか。そこが、カーティスや他のメンバーたちに課せられた、最大の試練になるかもしれない。

 仲間に取り込んだからには、その力を上手に活かしてやらなければならない。メルヴィンもそう思うのだった。

「ね、馬車きたよ」

「あ、はい」

 キュッリッキに促されて、メルヴィンはハッとなって、慌てて馬車に乗り込んだ。すっかり自分の世界に入り込んでいた。

 並んで座ると、メルヴィンはひっそりと息をつく。他にも乗客が2人いた。

「考え事でもしてたの?」

「ええ、まあ」

「ふーん」

 一応聞いてみた、といった感じの口調で言われ、メルヴィンは苦笑する。

 先程から、極力目を合わせようとしない。ツンケンしているわけでもなく、もしかしたら人見知りする子なのだろうか、とメルヴィンは気づく。小さな身体を固くして、どう接すればいいのか判らないといった感じだ。

「昨日の戦闘、凄かったですね」

 唐突に切り出されて、キュッリッキはビクッと思わず身構える。

「召喚スキル〈才能〉の力というのは、凄いものなんですね。初めて見たので驚きましたが、この先色々な力を見ることが出来るのは、楽しみでもあります」

「あ、ありがとう」

 頬を赤く染めて、キュッリッキは少し俯いた。こうして率直に褒められることはあまりないので、つい照れてしまう。

「あれは、魔法のようなものなんですか?」

 純粋に問われ、否定するように首を横に振る。

「アルケラに住んでいる子たちを、こちらの世界に呼ぶの。そして、アタシの思った通りに動いてくれるんだよ。だから、魔法とは違うの」

 いざ言葉にして説明しようとすると、どう伝えればいいか困ってしまう。

「うーん、どう説明したら判りやすいかなあ…」

 細い顎に人差し指をあてて、キュッリッキは上目遣いに、暗くなってきた空を見上げた。

「アルケラって世界には、色んな子がいっぱーい住んでるの。神様とか不思議な姿の生き物とか。昨日は敵を一気に倒す方法を考えていたら、ゲートキーパーと闇の沼が、アタシの作戦に同調してくれて、それであの子達に、こちらにきてくれるようお願いしたの。魔法じゃないの。この目でアルケラを視て、呼び寄せることができる、そういう力」

 自分では丁寧に説明したつもりだった。しかし、メルヴィンの顔は、判ったような、判らなかったような、そんな複雑な色を浮かべていた。

「判りづらかったかな…、ごめんね」

 しょんぼりと肩を落とし、キュッリッキは切なげにため息をこぼした。口下手で説明することに慣れていないので、尚更ガッカリしてしまった。

 護衛の仕事で召喚の力を使うことは、あまりない。あらかじめ、当たり障りのないアルケラの住人を呼んでおくので、召喚するところを見せたことが殆どなかった。

 過去所属した傭兵団で召喚の力を見せつけても、スゲースゲーの連呼で、とくに興味を持って聞いてくる者も皆無に等しかった。だから、こんなふうに説明に困ることも、あまりなかったのである。

「い、いえ、こちらこそごめんなさい! オレの想像力が乏しいから、想像しきれなかったんです。アルケラがどういうところなのか、とか。でも、召喚するという仕組みのようなものは、理解出来たと思います」

「……ホント?」

「ええ。100パーセント正確ではないかもしれませんが」

 照れくさそうに笑うメルヴィンに、キュッリッキは初めて愛らしい笑顔を向けた。

 全部ではないにしても、自分の説明したことが、少しでも伝わったという事実がとても嬉しい。

「この先いくらでも機会はありますから、教えてくださいね、召喚のこと」

「うんっ」

 嬉しさのあまり、声が弾む。

 こんなにも屈託のない顔で微笑まれて、メルヴィンは一瞬ドキッとした。

 追今しがたまで、緊張を貼り付けたような顔をしていたのに、今は素敵な笑顔を浮かべている。もとより美しい顔立ちだから、眩しささえ感じてしまう。

 これをきっかけに、少しずつ馴染んで、みんなとも話ができるようになればいいとメルヴィンは微笑した。

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