【小説】片翼の召喚士-episode011

chapter-1.ライオン傭兵団編
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ライオン傭兵団編-episode011 【片翼の召喚士】

(さて、どんな戦い方をするのかな、このちっぱい娘は)

 どっかりと地面に座り込み、タバコをふかしているギャリーは、傍らに立つキュッリッキをのっそりと見上げた。

 キュッリッキはただジッと、ソープワート軍を睨みつけている。その場から動かず、手足すら動かさない。

 やがてキュッリッキの双眸が、不思議な輝きを放ち始めた。その様子に、ギャリーとザカリーが気づいて見つめる。

「ルー」

 ギャリーに小声で促され、ルーファスもキュッリッキを見た。

 黄緑色の瞳にまといつく虹色の光彩が、煌きを放ちながらどんどん輝きを増していく。そして、キュッリッキはどこか遠くに向けるように言い放った。

「来い、ゲートキーパー!」

 すると、ソープワート軍の周囲の空間に、奇妙な歪みが肉眼でも見えるほどはっきりと浮かぶ。それは、水面に浮き立つ波紋のようにも見え、いくつも浮かび上がった波紋は、重なり合いながら広がっていった。

 その様子に、ソープワート軍だけでなく、サントリナ軍もざわつき始めた。

 グニャリ、そう空間がたわむと、今度は地鳴りが轟き始め、地面を激しく揺らしながら、それはゆっくりと姿を現した。

「なんだありゃ!」

 ギャリーとザカリーが同時に叫ぶ。

 城壁のような壁がいくつも地面から生えてきて、砂埃を撒き散らしながらどんどん高さを増していく。そして隙間もなくビッシリと、ソープワート軍を取り囲んでしまった。

 壁は鉄の色をしていて、うっすら蒸気が立ちのぼっている。とくに装飾もなく、ただの鉄の分厚い板のようだ。

 突如現れた壁に捕らわれてしまったソープワートの軍人たちは、抜け出そうと壁を登ろうとしていた。しかし、皆悲鳴をあげて地面に倒れている。

「な…、なんなんだ…」

 ザカリーは状況をよく見ようと、目を細めて視力を深める。倒れた軍人たちの掌は、酷い火傷を負っていた。その様子に、だいぶパニックに陥っているのが見て取れる。

「深き沼よ…」

 囁くようなキュッリッキの声に、ザカリーはビクッとなって、チラリとキュッリッキを見た。

「全てを飲み込む飢えた闇の沼よ……こい!」

 キュッリッキの双眸が、強い輝きを放った。それと同時に、ドップンッという音が峡谷に轟く。何もない空から、突如壁の内側に落ちたそれは、真っ黒なコールタールのようなものに見えた。

 高いところからその様子を見ているザカリーたちは、バカデカイ鉄の桶に、黒い水が注がれたようにしか見えなかった。

 コールタールのようなものは、鉄壁の中でブルルンッと何度か揺れて、やがて表面を平にした。

「ゲートキーパー、闇の沼、お疲れ様。もう帰っていいよ」

 親しげな友達に話しかけるような感じでキュッリッキが言うと、鉄壁もコールタールのようなものも、光の粒子となって、天に向かって消えていった。そしてそこには、何も残っていなかった。

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