【小説】眠りの果てに 第三話:パヴリーナとアンジェリーン

眠りの果てに(完結)
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 ダンスのレッスンが終わると、次は再びパヴリーナと二人に戻り、ピアノのレッスンになった。楽譜の読み方やピアノの弾き方を触りだけ教わり、もう昼食になった。やはり昼食も行儀作法を教わりながらとなって、何を食べたかすぐ忘れてしまうほど、色々なことを学んだ。

 少し休憩時間が与えられ、そして書斎に移って午後は語学や計算などの勉強になる。

 目まぐるしいほどたくさんの授業だが、インドラはとても楽しかった。

 これまでのインドラは、勉強する機会すら与えられない環境に身を置いていた。それを不満に思ったことはないが、学びたいと思う気持ちは持ち続けていたのだ。でも今はこうして色々なことを教えられ、学ぶことができる。読み書きが出来るようになり、計算もできるようになる。今まで以上に世界が広がったような気がしていた。

 行儀作法という夕食を終えた頃、ようやくインドラの勉強という名の仕事が終わった。

「ありがとうございました、先生」

「おつかれさまでございました。毎日大変だと思いますが、頑張ってついてきてくださいね」

「はい」

 パヴリーナは去り際に、一冊の絵本をインドラに差し出した。

「今日お教えしたことで、読める簡単な物語です」

「まあ、ありがとうございます」

 インドラは両手でその絵本を受け取る。表紙にはリスとネズミが可愛く描かれた、装丁の綺麗な本だ。

「はじめての……おるすばん?」

「はい」

 パヴリーナはにっこりと微笑む。インドラが正しくタイトルを読めたのが嬉しいのだ。

「明日物語の感想を教えてくださいね。それでは、おやすみなさいませ」

「はい。おやすみなさい」

 食堂を出て行くパヴリーナを見送ると、インドラは絵本をギュッと胸に押し抱いた。

 本が読めることは、小さい頃からの憧れの一つだった。読み書きの出来ないインドラにとって、本とは無縁だったからだ。

 でも、これからどんどん字を覚える。そうなれば、沢山の本を読むことができるのだ。

「頑張らなくっちゃ」

 にっこりと絵本の表紙を見つめると、軽やかな足取りで部屋に戻っていった。

-つづく-