
コトミ
一見ほのぼのとしたお話、けれども…
【掌編】おじいさんの時計

時計職人のおじいさんは、毎日、毎日、とっても素敵な鳩時計を作っています。
12時をしらせる愛らしい小鳥が、時計の中から出てきて囀るのです。
おじいさんの作る時計が大好きな近所の子供たちは、おじいさんが時計を作る所を見ています。しかし、おじいさんは小鳥を作っていません。
時計もきれいだけど、小鳥もとってもきれいなのです。
「おじいさん、小鳥はどうしているの?」
「君たちが帰った後に、作っているんだよ」
「小鳥を作っているところも、見たいなあ」
「ははは。でも作るところは内緒だから、教えられないんだよ」
小鳥を作る所は、見ることができませんでした。
おなかをペコペコにした小鳥が、美味しそうなパンくずを見つけて、窓辺に舞い降りました。
美味しくて美味しくて、夢中でついばんでいると、突然小鳥は真っ暗な闇の中に閉じ込められてしまいました。
驚いた小鳥は、一生懸命鳴きました。けれど、だれも助けに来てくれませんでした。
「どれ、今日の小鳥が手に入った。時計に組み込もう」
こうして、おじいさんの作る鳩時計が、今日も一つ完成しました。
-おわり-
初出:2019/07/05
コメント