第一話:自転車に乗る女二人

利子
「あのさ、由里姉
…」

由里子
「何も言うな、何も語るな、何も見るなっ!!」
ハンドルをギュッと握り締めて、額に汗して由里子
は前方を見据えた。そして頭を大きく左右に振る。右足はペダルに、左足は地面を踏みしめ、自転車が倒れないように踏ん張った。

利子
「あたしさ…、ジャングルってテレビでしか見たことないんだけどぉ…、どうみてもこれって、ジャングルっていうよね?」
由里子がバランスを取る自転車の後部座席に座りながら、利子
は周囲をゆっくりと眺めた。
鬱蒼と生い茂る緑、見事な太い幹をした木々、立ち込める湿気を含んだ濃い緑の臭い、時折聞こえてくる鳥の甲高い鳴き声。
天高く伸びている木々の葉の隙間から、チラチラと降り注ぐ陽光からすると、今は日中のようだった。
そこに、女の二人乗りをしたママチャリが一台、周囲の風景にかなりの違和感を漂わせていた。

利子
「秘境探検!! とかさ、フジオカヒロシが出てきたりして~」

由里子
「……」
由里子の背後から、利子がずいっと顔を覗き込む。

利子
「どう見てもジャングルだよねぇ。あたしたちって、太古の世界にタイムスリップしたとか?」

由里子
「アタシの計算では、太古とかアリエナイんだけど…」
由里子はジッとステムを見つめて呟いた。

由里子
「おっかしいなあ…」
再度由里子が呟いたその時、

利子
「あれっ、由里姉!」

由里子
「戻れるのかな? 利子、アタシにしっかりつかまってな!」

利子
「はいよっ!」
二人は突然発光し、そしてその場から掻き消えた。
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